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2014年2月6日木曜日

「雲水に謝る」


※イメージです


東京駅十一時十二分発小田原行きは、大磯−二宮間で起きた人身事故の影響で遅れて入線して来た。午後六時頃に事故があったらしく、大幅にダイヤが狂っていた。
特別列車(グリーン)料金950円を払っていたのだが、戸塚駅まで座れなかった。
隣のホームに国府津行きが来たのだが、とにかく帰るべしとそのまま立って行く事にした。

前から四列目の所に立った。
横に座っているのは、四十五歳位の女性、林真理子と木嶋佳苗を足して二で割った様なヒトであった。その隣には、スキンヘッドの四十歳位の男、作家百田尚樹と銀座和光の前に立っていた雲水を足して二で割った様なヒトであった。

「ざけんじゃないっていうんだよねぇ」とか、「ブルってられないじゃん」とか、「すっとこどっこい」とか、「バーカ、バーカー、ムシ、ムシコロリよ」とか。
女のヒトは次々に乱暴な言葉を大きな声で連発する。
二人の手にはウイスキーハイボール缶。
黒い髪、黒いマフラー、襟に黒いファーが付いた黒いオーバーコート。

まるで黒い固まりの様なずんぐりむっくりの体から「オイ、オマエ今度逃げたら許さんぞ」なんていう声がアルコールの臭いと共に放たれる。
百田尚樹風の雲水は、どうやら部下らしい。

ブイブイ乱暴言葉を発しつつ戸塚駅で降りる事となった。
まともに顔を見てしまった。相当にゴツイ造作の鼻ペチャンコの顔立ちであった。
そしてやっと座って帰った。

十二時四十五分から約五十分、BS3ch、プレミアムアーカイブス、一九七七年作、NHK特集「永平寺」を見た。
列車の中の黒い固まりの女性と違って、永平寺で修行を重ねる二十代の雲水150人位は黒いアートであった。

福井県の冬、零下10度、午前四時三十分から午後九時まで、道元禅師の教えを雲水たちは黙々とする。寒いというよりも痛いという。
読経する口から出る息が白い、白い、白い。黒の雲水と銀色に光る頭。
それを見ながら「曹洞宗道元」の教え、七百年の歴史に息を飲んでしまった。

朝食、お粥、たくあん、ごま塩。
昼食、麦飯、たくあん、味噌汁(ワカメ少々)。
夕食、麦飯、たくあん、味噌汁(お豆腐入り)、煮物少々(高野豆腐、芋、野菜)。
一日1500キロカロリー、大概の雲水は「脚気」になるという。
それぞれの目的とそれぞれの事情と、それぞれの覚悟で壁に向かって座禅をする。
睡魔に襲われたり、妄想すると体が前に傾く。
その時は警策で肩の部分をバシーンと叩かれる。

列車の中を思い出す。
どうしようもねえなあの女、きっとTV局に勤めているな、話の内容からすると。
どうしようもねえなあの男。

その夜打ち合わせが終わった後、男三人で中華店に行った。
安い、早い、旨い「菊鳳」へ。三人で酢豚一皿、エビチリ一皿、餃子一皿、焼売一皿、チャーハン一皿を食べた。

若き雲水たちの食事する姿を見て申し訳なく、思わず手を合わせていた。
すみません、明日はきっとお粥とたくあんと、ごま塩だけにします。
そういえば修行僧の事を「大衆(だいしゅう)」というのを知った。
大衆は修行せよだな。道元はとことん反権力であったとか。

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