今日まで家の者は娘宅に行って居ない。私は二日振りに帰宅。
ポストに郵便物や新聞が溜まっていた。
電気をつける。台所にヤカンがある。
湯の入っていないヤカンはどこか淋しそうなので、水をたっぷり入れて火をつけた。
すでに十二時を過ぎていた。
会社で未だ働いているスタッフを想うと何かせねばと思った。
服を脱ぎ、手を洗い、リステリンでうがいをし、水でザバザバ顔を洗っていたら、ヤカンがヒューヒューと鳴り出した。やっぱりヤカンは私が帰って来てうれしいのだ。
ヤカンがヤカンとして職務を果たせるからだろう。モノにも命はあるのだ。
古くなった冷蔵庫はウーウーと唸っている。
父、母、兄、友人、友人の写真の前にお線香をあげる。
カップの中に紅茶のパック、熱い湯を入れるとパックの糸がピンと張る。
糸をつかむ白い紙がカップの中に入りそうになったので指でつかんだ。
二日分の新聞に目を通すのに二時間ほどかかった。
お世話になった人が定年後故郷の高知に帰り美術館の副館長となり、忙しい日々を送っていると寒中見舞いが届いていた。モネの水蓮の絵とソックリな池がある。
その前で写真を撮ったのが葉書きにあった。水彩画で花の絵もあった。
きっと行くぞよ福井正文さんと葉書きに声をかけた。
まっこと行かなぁ~いかんぜよだ。
停年、定年、リストラで退社、職業引退などの手紙や葉書きが来る。
こればかりはどうすることもできない。
デコポンを送ってもらっていたので一個箱から出す。果物ナイフで四分割にする。
ナイフもどことなく嬉しそうだ。
午前三時、借りて来ていた映画を一本見る。
「消えたフェルメールを探して」(83分)。
福岡伸一教授を27日撮影する。教授はヨハネス・フェルメールの追跡者&研究者。
「フェルメール光の王国」は美術を書いた本の中では出色の名品である。
何しろ文章が上手い。一級の推理小説でもある。
一九九〇年三月十八日、ボストンにある個人美術館、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館で起きた有名な事件を題材にしている。
泥棒たちはガードナー美術館に侵入、一時間半かけてドガ5点、マネ1点、ホーフェルトフリンク1点、レンブラント3点、そしてフェルメールの最高傑作といわれる「合奏」1点を持ち去った。
その道で有名な元海軍上がりの絵画探偵ハロルド・スミスに絵を探す依頼が入る。
スミスは皮膚がんで顔は崩れている。
義鼻、耳には大きな包帯、片目には黒い布(伊達政宗みたい)。
フェルメールの名画には500万ドルの懸賞金がかかる。
イザベラ夫人が購入した時は5000ドルだった。
幼な子を亡くした夫人は、絵画、美術品、彫像、骨董などに生涯をかけ、気に入ったものはすべて競り落としていった。
残ったのは莫大な借金と美術館だ。
八十三歳でこの世を去る時、遺言で絵画美術品等は決して動かしてはならないと書き遺した。一般公開を続けるようにとも。
世界には兵器や武器マフィアとか、薬品マフィアとか、麻薬マフィアがいる。
中でも怖ろしいのが絵画マフィア(ギャング)だ。
ボストンのボス、ホワイティ・バルジャーは、ボストンで起きた事件は2秒で伝わるといわれるアイルランド系のマフィアだ。
元大統領、上院議員、下院議員、さまざまな悪党が事件にからむ。
議鼻の絵画探偵は「合奏」を世界中で探しながら無念にも2005年でこの世を去る。
ボストンのボス、バルジャーはFBIの内通者であったことが新聞でデカデカと発表される。FBIというのは超悪党なのだ。
絵画マフィアの世界が分かる、実によく出来たドキュメンタリー映画だった。
イザベラ・スチュワート・ガードナー夫人は、顔は平凡であるが、そのプロポーションは芸術品のようにすばらしかったという。
その肖像画は、ガードナー美術館にある。
通販で買ったジャケットが届いていた。留守の時置き場所があるのだ。
デコポンがおいしかった。
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