真の芸術家は正気ではない。正常でなく、正直でもない。狂気と異常と虚実が芸術家を興奮させ、そこから誰もなし得なかった芸術が生まれる。真の芸術家は等しく不安神経症であり、パニック障害を持ち、鬱病と躁病が交差する。純粋と混沌が水と油のようにせめぎ合う。そして、ある者は酒に、ある者はドラッグに、ある者はSEXに身を沈める。芸術家は人間不信であり、尊大であり、しかし野心に満ちている。栄光ある日々は朝陽のように短く、破滅はつるべ落としの夕陽のように速い。昨日夜、待望の映画をレンタルして来て見た(上映見逃した)。アレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリー映画だ。モード界の反逆児イギリスが生んだ真の芸術家、真のファッションデザイナーだ。栄光と破滅の人生は、真の芸術家にふさわしい。ロンドンのタクシー運転手の息子として生まれたマックイーンは、これといった専門的教育を受けていない。語学もできず、何の資格もない。ファッションの世界も、画商やパトロンに見出された画家と同じで、その才能が絶えるまで、徹底的に働かされる。年に14回のショーをさせられる。ランウェイを演出するのは、毎回斬新さと、冒険と野心とアイデアと気知に富んだ、舞台公演をするのと同じだ。才能は疲れ切る。莫大な金を手にしても、それはリポビタンDぐらいしか効果はない。名誉と金を手にした者は、失うものも大きく、より残酷である。ファッションデザイナーに同性愛者が多いのは、異性では理解されないからだろう。真に癒されたいと思うから、同性を求めるのだと思う(私はその気がないから想像だ)。20代ですでに最高の栄誉の数々を手にし、ジバンシィに招かれ、やがてジバンシィをサヨナラして、グッチに招かれる。最高の栄誉を手にするまでに、実はたくさんの恩人がいた。マックイーンの才能を見出した女性(イザベラ)がいなければただの縫い子か、フツーのデザイナーで終わっていたかも知れない。マックイーン自身がいちばんそれを分かっていた。マックイーンはマジシャンだと言う人もいる。すべてが魔法のようなランウェイであった。その栄光に影が見えたとき、マックイーンはイザベラの自殺に衝撃を受ける。そして母親の葬儀の前日に自らの命を絶つ。マックイーンはHIV陽性であった。すでに体は骨と皮のようになっていた。生前マックイーンは貧しいデザイナーを育てる基金を設立していた。2010年2月10日享年40歳、真の芸術家と言われるファッションデザイナーは、おそらくアレキサンダー・マックイーンしかいないだろう。ファッションやアートに関心がある人にぜひおススメの映画、圧巻の芸術だ。
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