ページ

2019年10月9日水曜日

「悪口本」

サラリーマンの夜の楽しみと言えば、ちょいと一杯と居酒屋に集まって、会社の悪口、上司の悪口、その席にいない同僚の悪口、取引先の悪口だ。スミマセン、冷奴と枝豆、オレはサバの焼いたの、オレはマカロニサラダ、オレはモロキュー、オレはシラスおろしと刺身三点盛、オレはブリのカマ焼きなどなど、好き好き頼んで、まずはビールで、まずはウーロンハイで、まずはハイボールで、まずは日本酒でとなる。草野球をした話、ゴルフに行った話、釣りに行った話、女房とケンカした話、腰とか痔が痛いとかの病気の話。あ~だ、こ〜だと話が弾んで、小一時間、酒が体に注入され、その効果が出始めると、一人ひとり会社や上司、同僚への悪口大会の開始となる。あいつはヨォ〜もともと何もできなかったのに、あの人をヨイショしまくって出世したんだ。バカだよバカ、自分じゃ何もできないんだから。あいつはヨォ~、パクリ屋だぜパクリ屋、自分じゃ何も考えられないくせに、若い奴の提案のいいとこ取りをしてやがんだ、ゴミだよゴミ。あいつなんかヒドイよ、自分で飲み食いした伝票を会社の経費に入れて込んでいるんだぜ、ダボだよダボ。あの会社のあの人は滅茶苦茶だよな。どうなってんだよ、あの会社。上がダメだから下のヤツまで無礼者ばかりだ。見積りを安くしろ、安くしろって値切るばかりだからな。高いゲタをはいてんだろうなんて平気でいうもんね。あんなガキにウチのあいつは、へいこらしてんだから、悲しいね。悲しい。下請けはつらいよ、バカヤロー。と、まあこんなかんじになると、もうどうにも止まらない。ギョーザまだギョーザ、なんて頼んでない品の名を言い出したりする。日本国の経済は、こんな人たちのがんばりで持って来た。最近の若いのはヨォ~、すぐパワハラだ、セクハラだ、ブラックだなんて言って文句ばかりいいやがる。モタモタしてっからこうしろって言っただけなのに始末書、いつもブスッとしてるねと言ったら始末書、まだ7時だ、あと2時間で今日中にやってしまおうと言ったら始末書だ。やってらんねえよ、何が働き方改革だっていいたいよ。これからの日本国はこういう人たちのがんばりが必要なのだ。「彩図社」刊の「文豪たちの悪口本」というのを旅の途中で読んだ。これは文士たちが、文士に対して言い放ったり、書き残したり、書き送ったりした、赤裸々な罵詈雑言を集めた本だ。中原中也という詩人はかなり酒グセが悪かったようで、太宰治に対して、なんだ、お前は、青鯖が空に浮かんだような顔をしやがって。永井荷風は、菊池寛の如き売文専業のなすところと菊池寛を嫌い、その菊池寛は「ゴシップ本能は、人間の必要な本能の一つである。人間が二人集まれば、会話の三分の二まで人の噂である」と言う。大文豪同士も言葉のボキャブラリーと表現力の差はあれ、会社員の居酒屋と同じである。現代社会はネット上で悪口を言うという卑怯な方法が多い。悪口は本人に向かって言い合うほうがいい。その後、何が起きるのかは予測不明だ。鼻血とか、歯が折れたりとか(?) 



0 件のコメント: