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2010年1月12日火曜日

人間市場 鰆市篇

不器用な私が魚を釣って来た時、1500円を払うと三枚に、刺身に、切り身におろしてくれた魚屋さん夫婦が店を閉めた。20年余、ソーセージといえばこの店の物しか家の者は食べない肉屋さんが消えた。おでん大好き家族の支持するおでん種の店が消えた。おめでたい時に欠かせない、美味しいお赤飯を作ってくれる和菓子店が消えた。何かにつけ駆けつけて来てくれた電気屋さんが消えた。若い夫婦がやっとの思いで作ったという小さなパン屋さんがあっという間に消えた。高原野菜が絶品だった八百屋さんが消えた。メンチコロッケが抜群だったお総菜屋さんが消えた。喫茶店を改良してカレーライスだけを売って大好評だったカレー屋さんが消えた。

「長い間のご愛顧ありがとうございました。当店は○月×日に閉店させていただきます。」

この文を書いている主人、それを見ている奥さん、家族、そしてそれを貼るセロテープ、ガムテープ、画鋲も辛い。出来る事ならもう少し頑張ろう。でも、このままじゃどうしようもないじゃない。でもお父さん、借金膨らむばかりだよ、と息子。ん、でもな。時代の流れよ、しょうがないじゃない、と娘。でもな、俺に他に何が出来るんだよ。もういいじゃない、毎日毎日こんな事話してたら病気になっちゃうわ、と娘。駅前に大きなスーパー出来たし、もう駄目なんだよお父さん。後4年で年金が少しでも入るし、でもな、たかが知れてる額なんだぜ、なあ母さん。せっかくの仕入れた物、作った物捨てるのは死ぬ程辛いからね。

長い、暗い、辛い、切ない会話が続いていた筈である(想像です)。人は何が辛いかって、自分が丹精込めて使ってきた物を捨てる時程辛い事はないと思う。生涯かけて店に並べてきた物を捨てる時程辛い事はないと思う。昨今はコンビニ大手が大手メーカーに対し、こんなもん売れませんよとか、こんな品、こんな味、こんなパッケージ置けませんよとか、生々しいシーンがテレビで流れる。その昔酒屋さんだった所が一番コンビニに変わっている。24時間夫婦で経営、アルバイトの人間に売り上げを取られない様、商品を万引きされない様、売り場の裏のビデオモニターを見続ける。コンビニの本部からお姑さんみたいにあれこれ注意される。あ〜あ、もうやってられないと近所のコンビニも消えた。ブックオフという得体の知れない本屋になった。本屋で万引きされた本がここに集まるという。

消えた人達によくやって来たじゃない、消えた方がきっと幸せですよと声をかけたい。頑張って来た人には、きっと良い事がある。ほら、息子さんの就職もちゃんと決まったし、娘さんも大学に自力で入った。嫁に出した娘さんに赤ちゃんが出来た。幸せじゃないですか。私の大好きな魚に鰆がある。みんなにきっと春が来る。活きのいい春が来る。

1 件のコメント:

sakon さんのコメント...

本当に辛く悲しい話ですし、そんな時代ですよね。。本屋は万引きで潰れるという話は多いみたいです。利幅が少ないから死活問題です。