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2010年1月28日木曜日

人間市場 タマノ市


その頃留置場には六人の男がいました。




一人は植木市で盆栽を盗んで捕まった23歳の男、

一人は南紀白浜からはるばる逃げた女を追って来て傷つけ捕まったヤクザ者46歳、

一人は人の家に忍び込んで枕銭を盗む通称ノビの名人前科多数の初老の男、

一人は当時千葉県の建設業界のボスでありダービー馬の馬主、多額のノミ行為で捕まった。二年間内偵されていたという。あまりに多数の金を動かしそれが暴力団の資金源になっているとの事で遂に御用。




署内では大物のため本庁より出張して来る。又は車で迎えに来てそれに乗って行く。

何もかもがスペシャル。

一人はやたら理屈ぽい元中核派の男58歳、内ゲバで数人逮捕。

それぞれ別々の署へ、朝から晩まで難解な事を喋り続ける。

一人は女の子を引っ掛けてはデリヘルとか風俗とか遠くフィリピンとかタイに人身売買をする軟派師36歳。狭い部屋でこの男たちが同居生活をする。




同じ時間に起きて寝て食べて、15分屋上で外の空気を吸って煙草プカプカ、週二回15分ぬるい風呂に入る。一日、二日、三日、四日、五日となるにつれてそれぞれ身の上話となる。




又、自分が犯した事を微に入り細を穿ち語り始める。開いていなくても話す。

拘置期限は十日、追加は十日。そこで起訴されるかどうか決まる。奇妙な連帯感が芽生え、それぞれ話すといい人なんだよなとなる。看守さんとか担当さんとは仲良い友達となる。




向い側に大親分が入ってきた時なんかは署内大パニック、腰痛持ちとかでマットが入れられた。基本房内では横になってはいけないのに大親分はマットの上でのんびりスポーツ新聞なんか読んでいる。オイッ担当なんて言うと、ハイッとかヘイッとか言って鉄柵の前に平伏する。何かご用でございますかなんて調子だ。




権力は権力に弱いのだ。

当時、ダービー馬タマノホープ、タマノミノル等タマのつく馬をいっぱい所有している玉野建設の会長が夜中突然起きて、独り言を言い始めた。

あ~嫌だ嫌だ、ババァも息子も娘もみんなバカヤローばかりだ。どいつもこいつも俺の金ばかり当てにしやがって、銀座の女も神楽坂の女もみんな出たら馬の足で蹴っ飛ばしてやる。もう俺は何もいらねえ、馬と一緒に生活してええんだ。




なんてうるさい事うるさい事。

みんな起きてしまった。会長は金が有りすぎるんだよ何か本業以外に使う事ないのなんて聞くと、それを考えてんだよここんとこずっと。馬と喋れる機械を開発しようかと思ってるんだ、馬は可愛いからな。馬が喋れたらオラいつスンでもエエンダなんて急にズーズー弁になった。




その次の日会長さんは突然釈放になってしまった。

出たくない、オラココニイテイダなんて駄々をこねていた。そんな事言わずにぜひ出て下さいよと担当はオロオロしていた。




大親分はその頃差し入れの豪華な弁当を食べ、近所の喫茶店から珈琲を持って来させていた。タマのついている馬を見たらきっとあの玉野のオッサンの馬だ?。今でも沢山走っている。




あ、そうそう、あの南紀白浜のヤクザ者、今はすっり堅気になって熊野古道の入り口であの時傷つけた女とお土産屋をやっているそうだ。風の便りに聞いた。

子供も出来ていい夫婦だと。愛していたんだな、余程。何でこんな話を

知っているかはヒミツです。


1 件のコメント:

sakon さんのコメント...

権力者は権力に弱い。何か笑えました。普通の人にはまったく分からない話。ありがとうございます!