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左斜め前の男は雑誌SPAを読んでいる。
年末人妻浮気カレンダー、危険な日は12月20日という見出しのページだ。
右斜め前の男は東京スポーツという新聞を読んでいる。
見出しにはどーんと、関東連合元リーダー、石元太一無罪を主張!勝算?!
右隣の男はマスクをしたまま眠っている。
問題は私の左隣りに座っている女性だ。
ぷーんとたこ焼きの臭いを発散させている。
年の頃は三十五位、髪は黒く顔は四角い。
別に何を食べたからって文句は言えないが、何も満員の列車の中でたこ焼きはないだろうと思う。白い袋に赤い文字で「銀だこ」と印字してある。
東海道線グリーン車内は年末気分が充満していた。
重心を失ってグラン、グランしている中年の紳士(?)(混んでいて座れなかった)私の横まで揺れて来たりする、吊り革がないからだ。
車内アナウンスの女性の英語が気持ち悪い位呂律が回っていない。
英語が達者な私の知人もヒデェー英語だと言っていた。酔った時に録音したのだろうか。外人が何人乗ってるか知らねえが、いちいち英語でアナウンスすんなといいたい。
あちこち外国に行ったが日本語のアナウンスなんか聞いた事はないっていうの(マア当たり前か)。
グラン、グランしている人がいつかぶっ倒れて来るぞと覚悟していたらやっぱり来た。
横浜を過ぎた時男の両膝がカックンと来た。
横浜で座れるだろうと期待しつつ緊張感をかろうじて維持していたのが、その期待は叶えられなかった。前の席の一部分で支えていた体が新聞を読んでいた処にガッガッと来たのだ。
覚悟をしていたので新聞にダメージはなかった。
“気合を一発”発すると、ふ・い・ま・せ・んと言った。
グレーのスーツの素材がかなりいいと思った。それなりの地位の人だったのだろう。
戸塚に着いて席が空いた、男はどどっとなだれ込むように席に座った。
頭がガクンと前に落ちた。
たこ焼きの女性は相当神経質なのか無神経なのか、車内に屋台を持ち込んだ。
たこ焼きの上の鰹節を二本の楊枝でかき分け、そこに小さな袋に入ったマヨネーズを少しずつ少しずつたこ焼きの上に絞り出す。楊枝でかき分けてはたこの存在を確かめる(?)
それにしても列車内のたこ焼きの臭いは物凄い。
屋台からのものは“いい香り”なのだが。東海道線内には日々ドラマがある。
今年も残り二十日、見たくもないものが見え、嗅ぎたくない臭いに接し、グラン、グラン、ゆ〜ら、ゆらする人に注意を払わねばならない。
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