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2013年12月6日金曜日

「どこへ行く」




午前二時五十六分、NHKのテレビには昭和のSL映像が流れている。
私は鉄道マニアではないが、この「新日本紀行」のSLの映像は格別に好きだ。

GILBEY’S-GINのチビ瓶を買ってきたのでそれを氷の入ったグラスに入れてゴクッと飲む。口からノドへ、そして食道を通って空腹となっている胃袋にジーンと入って行く。
丁度SLがトンネルの中を抜けて行く映像とダブって行く。
亀田製菓の「手塩屋・だし塩味のおせんべい」をポリポリと口に入れる。
ジンと塩せんべいは中々に相性がいい。

昭和四十年代の日本はまるで印象派の絵画の様に叙情的だ。
森林が直立し、山並みは広く長い。空はどこまでも青く雲は真白い。
大地には緑が溢れている。田畑は黄金色に輝いている。
波が打ち寄せる海岸は見事な曲線美を誇っている。 

SLの鳴き声と共に白い煙が獅子のたてがみの様に気高く噴出する。
春は騒ぎ、夏は叫び、秋は交響曲となり、冬は一年の汚れを白く洗い落とす作業を進める。世界中で日本ほど四季の物語がある国はない。

SLは戦後の日本を復興させる労働者のシンボルであった。
二度と戦争に向かう事なきように願う人々の汗が水蒸気となって北から南へ、東から西へと走り続けた。人間は清貧だが大地は豊かであった。

昭和四十年、私は成人した。心を入れ替えると決意した。
振り返ればこの国が脱線し、金儲け主義・競争社会になったのは東京オリンピックが始まりだった。

平成二十五年、大地は骨灰色となり緑はない。空は暗く雲は重い。
海は放射能で汚染され、海の幸は死滅する。四季の物語は消えて行く。

あ〜あなんだか悪酔いしそうだ。眠気を誘うつもりが目が覚めてしまった。
直径7センチ位の一枚のおせんべいも残りひとかけらとなった。
もう一杯やるか、否止めておこう。国が乱れる時、人物が現れるという。
諦めからは何も生まれない。人物はきっといる、そんな夢を見たいとテレビを消した。
何もかもしんどい日本、そんなに急いで何処へ行く

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