ページ

2019年6月24日月曜日

「青空と、鉛色」

これほど対照的な映画を2本続けて見たのは久々であった。週末TSUTAYAでレンタルして5本持ち帰った。1本はクリント・イーストウッド監督・主演の「運び屋」である。私が少年の頃テレビの人気ウエスタン「ローハイド」に出ていた若いカウボーイがクリント・イーストウッドだった。すでに89歳となっているが、その制作意欲はおとろえを知らない。世界の映画人が認める生けるレジェンドである。アメリカのテネシー州、広大に広がる青空、ある物を運ぶことになった。老運送屋業者はカーラジオから流れるカントリーウエスタンを口ずさむ。物語は書けないが、妻と離婚して、子どもたちとも気まずい関係になっている、男は丸くなった背中をアロハシャツでかくして、ヨレたブルージーンズでヨタヨタの足をかくす。運び屋業で稼いだ金は、朝鮮戦争の退役軍人会などに寄付をする。「100歳まで生きたいなんて、99歳の奴が言うもんさ」と言う。明日のことは明日にならなきゃ誰もわからない。ある賢人の言葉を思い出す。クリント・イーストウッド自身、何度か離婚をし、若い女性と再婚したりしてひたすら映画制作に執念を燃やす。気分は今でも、ローレン、ローレン、ローハイド! イエーイなのだ。カントリーソングはテネシーのロングハイウェイで聞くとたまらなく気分がいい。私は、ジョニー・キャッシュの大ファンだ。ロードサイドの小さなライブハウスでビーフサンドとかビーフジャーキー、スペアリブかなんかを手をベタベタさせながら食べて、冷えたビールが最高だ。バイオリン、アコーディオン、バンジョー、薄暗い中で何度か聞いたことがある。映画の結末は(?)クリント・イーストウッドに心から拍手だ。好きな映画だ。次に見たのはイギリスのとある田舎だ。正岡子規は、たしか秋雲は砂の如く、冬雲は鉛の如しと書いたと記憶しているが、まさにイギリスの空は鉛色だ。映画のカテゴリーはラブ・ストーリーだが、この映画のラブは山の中で牛を養い、羊を養い、年老いて半身不自由な父と、その母を養う一人の若い息子だ。毎日の生活は空の色のように重く、暗い。小さな町にあるBar以外若い女性はいない。牧草と堆肥とクソまみれの牛たち、羊たちと暮らす。イギリスの料理は世界的にマズイというか、種類はないのが有名だ。若い息子の趣味といえば、気に入った男とのセックスだ。男と男のセックスをこれほどリアルに描いた作品は少ない。暗い毎日にやり切れない男たちが、トイレで、トレーラーハウスで、山小屋の中で、動物のように交尾したり、セックスに慣れた女性からされるように“愛”を重ねる。1週間の約束で手伝いに雇った男もまた、これしかやることことがないように全裸のようになり、求め合う。見終わった後、映画を見たというより、イギリスの本を読んだ気分になった。この映画に似合う曲は何だろうか。題名は「ゴッズ・オウン・カントリー」である。決して変態的でなく極めて秀作であり評価を得た。シネマートの上映企画で5回限定の上映が行なわれ、すべて満席に立ち見が出て全国上映にいたった。監督の力量は並外れている。アメリカの西部の牧童たちも同様な“愛”が多いと言う。美しい絵画のような「ブロークバック・マウンテン」などは多くの賞を得た。長い時期、牛を追って男同士が長いテント生活を一緒にするからだ。6月23日、日経新聞にTHE STYLE/Fashionという特集ページがあった。今年5月世界的デザイナー、ジョルジオ・アルマーニ(84)が、12年ぶりに来日したときの記事があった。アルマーニは医学部で人体構造を学んでファッションに転じ、それまでの概念を革命的に変えた。その経験を活かして、インテリア、ホテル、レストラン、化粧品などトータルライフブランドを築きあげた。大事業家でもある。41歳でアルマーニ社を起こす。彼を支えたのが公私ともにパートナーだったセルジオ・ガレオッティ氏だった。11歳年下の彼を失ったショックは大きく、一時姿を現さなかったが、アルマーニは復活して今日まで世界に君臨している。「一つだけ願いがかなうなら不死身になりたい」と語った。メンズにしてもレディースにしても、ファッション界のパートナーは同性が多い。クリエイティブを生む“種”があるのだろう。私にはまったくソノ気がないので分からない。で、ソノ人たちに聞くと、異性は疲れを感じさせるだけで、癒してはくれないのだと。クリエイティブを追求する人間に、定年はない。孤独との旅を続けるのと同じである。(文中敬称略)



0 件のコメント: