ページ

2010年3月8日月曜日

人間市場 童話市

赤いハマナスが狂い咲く。
北の国のずっとずっと外れの島の事です。昔ある国がたくさんの爆弾を落としその穴がやがて沼となりました。人々は天から降って来た物がつくったので天沼といいました。その沼は冬になると厚い氷が張りました。

春から秋になると色とりどりの鳥たちが集まりました。遥か遠くからも鳥たちは来ました。その沼のほとりに小さな鳥の学校がありました。
この学校は生まれてから六十五歳までいなければなりません。六十五歳になると命を卒業するのです。その鳥の学校に一羽の美しい鳥がいました。

少年鳥たちはその美しい鳥の関心を得ようと近づきました。美しい鳥はそんな少年鳥たちにクッククックとノドを鳴らしました。少年鳥たちは自分に関心があるのだと思い自分勝手に喜びました。先輩鳥たちはそんな少年鳥たちを囲んでは羽根を抜いたりしていじめました。
ある風の強い日、十四歳という一羽の少年鳥が遠く貧しい島からやって来ました。その少年鳥はとても乱暴鳥でした。何度も何度も仲間と諍いを起こしました。弱い鳥をいじめる先輩鳥たちをやっつけました。

美しい鳥はそれを見ていて一度自分の美しい羽根を抜いて渡しました。ほんの少し茶化したのです。美しい鳥には取り巻く鳥がたくさんいてそんな事をするときっといい気になるわよと言って笑いました。
十六歳になった時、乱暴鳥は追放される事になりました。自分の身に憶えがないのに罪を着せられたのです。ある密告鳥が美しい鳥に美しい羽根をもらった事に嫉妬したのです。
追放されて行く時、乱暴鳥は美しい鳥を探したのですが美しい鳥はすっかり忘れていました。先輩鳥に気を奪われていたのです。乱暴鳥はそれから悪い鳥たちしか居ない島に行き、ますます乱暴鳥になっていきました。

でも夜になると必ず美しい羽根を見つめていました。
島が吹き飛ばされそうな北風の日も、島が真っ白の小高い山の様になる雪の日も、稲妻が光り狂う日も夜になると美しい羽根を見つめていました。島から島へ乱暴鳥は飛ばされて行きました。すっかり年を取った乱暴鳥は木から木へと飛ぶ事も出来なくなっていました。
少年鳥の頃は乱暴鳥であったが歳を重ねる度に島の鳥たちを不幸から救ってあげていきました。

ある嵐の日、一羽の女鳥が舞い込んで来ました。その女鳥はあの天沼の鳥でした。美味しい食べ物と水をあげながらあの美しい鳥はどうして居るだろうかと訊ねました。あの美しい鳥なら名門の鳥と一緒になり三羽の子をもうけ幸福にしていると聞いたのです。
夜美しい羽根を見ながら今日までの月日を数えました。もう六十三歳になっているはずだ、自分と同じだから。あの島の学校では六十五歳でこの世から卒業しあの世へ飛んで消えて行くという掟がある。

どうしても、もう一度あの美しい鳥に会ってあの世に飛んで行きたい。その夜から来る日も来る日も同じ事を考えていた。
しかし体は急速に衰えて行きました。島にある一本だけの梅の木にポツンポツン白い花が咲くのを合図にして年老い鳥は島を飛び立ったのです。
だがやはり思った様に風に乗る事が出来ない、必死に上を目指すが思うように行かない、何度も海に落ち体を濡らしました。
波に揉まれながら美しい羽根を握りしめて持ち何とか風を起こしてくれと願った時、大きな竜巻が起き一気に上に昇ったのです。
年老い鳥は最後の力を振り絞って飛んだのです。きっともう一度会うんだと思って。青空の中に真っ白いまるで人間の耳朶の様な雲が見えてきたのです。きっとあの雲を越えればあの島のはずだ。雲はどんどん近づき大きな壁となりました。あっと思った時年老い鳥は雲に思い切り当たったのです。

羽根がバラバラになってしまいました。何もかももう見えなくなり体も冷たくなり年老い鳥は激しい波の上で息を絶えました。濃い鉛色になった海に虹色の美しい羽根が浮かんでは消えていました。

美しい鳥は親子水入らずで吊り橋の上で遊んでいると娘鳥にいわれたのです。母鳥様の大きな羽根が抜けて飛んでいきましたよと。
その日から天沼にあった水が引き始め渇きヒビ割れたのです。そのヒビに大きな美しい羽根が刺さっていたのです。あの吊り橋は落ちて無くなりました。

美しい鳥は決して死ぬ事が無くなり永遠に天沼の学校で生き続けたと伝えられているのです。ある旅鳥が言いました。二つの美しい羽根が大きなまるで人間の耳朶の様な白い雲に二つの美しい羽根が重なり合って刺さって居たのを旅の途中で見たと。

息を絶えた乱暴鳥は中空の中にいました。あの美しい鳥と巡り逢う事がきっと出来る。ずっとずっと雲の上から見守ってあげよう、何か不幸が起きたらきっと、きっと、そう思っている内に体中の羽根が強い風にさらさら一羽根一羽根とちぎれていました。

あっ、お母様空を見て凄い羽根の嵐よと美しい鳥の娘鳥は言った。美しい鳥はそれがあの乱暴鳥の羽根たちとは気付かずにその日の食べ物を用意していたのです。

0 件のコメント: