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2010年3月15日月曜日

人間市場 指市


人間辛抱だと言ったのは初代若乃花。土俵の鬼であった。
深夜古い東映映画を観ていたらつくづくそう思った。配役の中に今は立派な役者となった人の名がその他大勢の中にいた。辛抱の歴史があった。

「ちい散歩」でお馴染みの地井武男。
高倉健の目に留まった小林稔侍、地井武男にはそこそこセリフがあったが、小林稔侍にはほとんど無かった。大部屋俳優という、いつか俺だってという目付をしていた。

私の古い友人に昔大部屋の女優だった女性がいる。
今は小さなクラブをある処に出している。美しいが運がなかった。
この女性を私は心から尊敬している。私より二つ年上である。左手と右手の小指がない。
何故か左手は自分の男の為、右手は自分の息子の為に自分で詰めたのだ。

男は器量も十分ある愚連隊のボスであった八人の屈強な若者を従えていた。
本筋のヤクザも一目も二目も置く男だった。男の為なら八人の若者は命を張った。
毎日、毎日抗争に明け暮れた。しかしどんな屈強な男たちも強大な組織を持つ本筋のヤクザと戦い続けるには限界があった。

いつしかボスと八人はシャブ中毒となっていった。あちこちのいたずらの場(博打場の事)でモメ事を起こしていた。又、飲み屋やクラブ等のツケは溜まりに溜まっていた。女性は中学生になった息子を抱えながら必死に働いた。その地でも有名な美人ホステスとして知れ渡っていた。

ある夜、大きな博打があった。
そこにボスと二人の若者そして女性がいた。張り金も大きい金筋の博打場である。
負けが込んだボスは駒を回せと何回もねだった。三人は場を外しながらトイレでシャブを打ち続けた。深夜も二時を過ぎた頃、もう駒は回せないと言う人間に対し灰皿で頭を殴り、コップで目を突いた。若者二人も同様に暴れた。
博徒にとって博打場は命、そこを荒らされたら答えは一つしかない。三人は直ぐに大勢の人間に体を押さえ込まれ、数台の車に乗せられ運ばれた。

中学二年ですっかり不良になっていた息子はそれを聞いて駆けつけた。
ポケットには飛び出しナイフを持っていた。父親がさらわれて行った博打場に駆けつけたが取り合ってもらえない、その上数発顔を殴られた。
その時少年は飛び出しナイフで一人の男の腹と太腿を刺して逃げた。
とある倉庫の中にボスと二人の男が太い鉄条網でぐるぐるにされていた。
山に埋めるか、海に沈めるか、ミンチにして鰻やハマチの養殖のエサにするか、本気とも冗談ともつかぬ話をしながら一人の男を待っていた。組織を仕切る若頭である。

寒いよー、寒いよ、温かい物頼むよと若者の一人が言った。
温かい物とはシャブの事である。どうしようもねえな、すっかりシャブで使い物にならない男になりやがった。
ケジメもつけなければと言った時、駆けつけた女性が私の体でケジメを付けてくださいと言った。そしてその後とった行動が一つの伝説となったのだ。誰かヤッパを一本下さいと言ってそれを手にした。左手は亭主の侘びですと言って小指を落とした。
右手は息子の侘びですと言って小指を落とした。力が入らず靴を脱ぎ血油のヤッパを思い切り足で踏んづけたのだ。左手の時はガラスの置物で刃物を思い切り叩いた。
これで命だけは助けてやってくださいと言って。とかく噂の花は大きくなって飛ぶ、小指が二本ずつや三本ずつになり仕舞いには片腕になったりした。

その時、若頭だった人間はその場を収め男を上げた。
しかし皮肉な事にこの人間はこの事件の後。八ヶ月後シャブ中の愛人に刺され殺された。久々に挨拶をしに店に顔を出すと指の無い手でマイクを握っていた。
小さく頭を下げると歌いながら目で座って一杯やってと言っていた。
いつ見ても美しい女性だった。

西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」を歌っていた。

1 件のコメント:

しきろ庵 さんのコメント...

素敵ですね。男のロマンですね。一度お会いしたいものです。