その夜、銀座の店はガランガラン。
何故か、それはサッカーの試合があったからだ。
私は来年勤続四十年を迎える小社の大番頭と三十九年を迎える系列会社の社長と一緒だった。
もう一人はそのむかし霞ヶ関ビルの二十一階にあった広告代理店で経理をしていた女性。
今は押しも押されぬ銀座のクラブママ。指には高価なダイヤの指輪。
映画を作る予算が不足しているからご協力をといえば絶対に駄目だと(当たり前だが)。
来ている着物は値段不明。その四人でおでんの名店「お多幸」に入っていた。
いつもはビッシリ満員店内も(一階、二階)ガランガラン。
胸章に「李」と書いてある眼鏡をかけた女性がオーダーをとりにくる。中国人の店員はとに角ぶっきらぼうで、愛想がない。基本的にサービス精神がないのだ。
今は初鰹の季節、おでんの前には先ず鰹のたたきだ。
あるかいと聞けば「ね~ヨォ」「何、ねえヨォ」だと。ここで怒ってはいけません。
私は何度か経験済み「ね~ヨォ」は、「メーヨー」であり、「メーヨー」は、ないよ、ありませんよの意味なのだ。
気の短い人はこの「ね~ヨォ」に初めて出会うと必ずお客をバカにしてんのか、エッ、オイ、責任者呼んでこい!となるのです。はんぺん、ちくわぶ、ねぎま、つみれ。
後は串カツ一本(これはうまいよ)アジのお刺身を頼んで、むかし、むかしの話で盛り上がる。
知人のアーティストが作ったオリジナル作品の置物をママさんが買ってくれたので、そんじゃちょいと一杯とママのお店へ。美女、熟女四人、なじみのマスター、ピアニスト一人。で飲んでいるとお客さんは一人も来ないでないか。
誰か来たら帰るぞといって待つ事長し、十時になっても一人も来ない。
よし、帰るぞと決めて外に出た。雨がしとしと降っていた。
それじゃ又なと外に出て一歩、二歩、三十五歩歩くとワァ~、ヤバイ、目と目が合ってしまった。
何、どこにいたのと、時々友人と行くクラブの女性。
お客さんを送った後。
ネェ〜、サッカーがあってお店ヒマなの。寄って寄ってというからそれじゃ一杯だけだぞといって店内へ。
確かに若い美女軍団で有名な店もサッカーにはかなわない。
ガランゴロン、犠牲者となった我等は、一杯が二杯、二杯が三杯となって終電間近か。
この店は、私の親愛なる友人の行きつけの店。
夜の掟では人の行きつけの店にその人抜きで行ってはいけないのだが、その男はもう自分の家。
一緒なら高い伝票をチェックしてくれるのに。次の日電話を入れると、ご愁傷様でしたみたいに笑っていた。
銀座通りは空車のタクシーがズラーっと並び、白タクの運ちゃんはお客がいないので、磯部焼きの屋台の横にヘタリ込み。バラ売りのオバチャンはもう、バラのバラ売り状態でした。
1 件のコメント:
おお番頭さんと銀座のママは、若い頃、結婚を考えた相手で、同棲してました。なんて、真実は小説寄り奇なり、なんてね。人間輪舞
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