熱々のカレーうどんを食す時、気の利いた店は白い紙のよだれかけみたいなのを出してくれるが、その店は気が利いていなかった。
その日私が見たカレーうどんの惨劇は相当に面白かった。
カレーうどんは店によって太さが違う。
ぶっ太いものからやや細いものまでいろいろある。
その太さは法律で決まっていない。
私の斜め前の男と女性、きっと会社の同僚だろうか。
メゴチ天ざるそばを頼んだ私は仲良く話す二人をまあいいじゃんと見ていた。
男27歳、女性23歳位だろうか。男はカレーうどんを頼んでいた様だ。
ハイおまちといった調子で男の店員がカレーうどんを出した。
見るからにグツグツ、熱々、うどんはぶっ太い風であった。男はお先にといってカレーうどんに少々七味唐辛子をふった。
その時、おまちと女性に玉子とじそばがきた。
男は白いワイシャツ、女性は薄いグリーンのブラウスであった。
カレーうどんは入れ物一杯に入っている場合が多い。それ故第一回目のうどん持ち上げの量と熱々度の計測にしくじると惨劇が起きるのだ。
男は割り箸にぶっ太いのを6本位掴んで口に入れた。
アヂ、アヂ、アヂーとぶっ太いうどんを入れ物の中に落としてしまった。
物理的現象として黄色い熱いしぶきが飛び散った。
まず自分の胸に、アッチー!でワイシャツに黄色いシミがついた。
時を同じく対面の人、そうです目の前の女性の顎の下部分とブラウス上部にしぶきが飛んだのだ。キャー、アッツイ、アッツイと叫んで女性は立ち上がった。
そのついでにコップが倒れ水がチャコールグレーのスカートにかかった。
アッ、イヤダーとなった。男はゴメンゴメンといいながらハンカチを出した。
女性は泣き顔になった。取れない、絶対カレーのシミ取れないといった。あんまり美人でなかったがその仕草が可愛かった。玉子とじの中に二本の割り箸が刺さっていた。
ヘイ、おまちと私の頼んだメゴチ天そばが来た。
店員は惨劇を見慣れている様子だった。カレーうどんを頼んだ時はくれぐれも用意周到にしなければならない。なるべくなら女性と一緒の時はやめた方がいい。
カレーうどんは仲良くしている二人を一瞬にして引き裂く凶器になる。
“人類は麺類だ”なんて凄い広告のコピーがあった。かくいう私は相当の面食いなのだ(?)。カレーうどんをすする時は一人孤独を味わいながら小一時間かけてすする。アッチーじゃねえか、大人しくしろこのうどんめといいながら。
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