中島貞夫監督 |
サッカー観戦で頭の中がレッドカードになってしまったので映画を観て少しクールダウンさせた。
一本は映画館に足を運んだ。
有楽町スバル座、六月十九日午後六時三十分の回だった。
桜庭一樹の直木賞受賞作を大好きな熊切和嘉監督がメガホンを取った。
題名は「私の男」舞台は北海道オホーツク側の小さな町。
養父(浅野忠信)と養女(二階堂ふみ)の禁断の愛。実は本当の父娘だったらしい。
警官を家の中で養父が刺し殺すのだが、何故か警察に追われない。
広い映画館の中二は私を入れて十四人。
流氷の上に置き去りにされてカチンカチンになったという藤竜也の存在がわからない。
とにかく映像が暗い、暗い、暗い。禁断の愛が全く伝わって来ない。
どうした熊切監督と思いながら、映画は終わってしまった。
ただ久々に流氷の泣き声が聞けたのが救いだった。
かつて何度も撮影をした。流氷と流氷が接し合い、軋めき合い、重なり合うと流氷と流氷がまるでSEXをしているように、呻き声をあげるのだ。
熊切監督はきっと流氷によって、父と娘の漂う関係を描いたのだろうと思う。
秘かな月光りの下、夜の流氷は実に物悲しく、妖艶である。
もう一本はレンタルしてもらってきた映画だ。1980年東映製作「さらば、わが友実録大物死刑囚」監督は中島貞夫、東大出のプログラムピクチャー、何を作っても二流作、三流作という人なのだが、この二流感がいいのだ。
プログラムピクチャーとは、会社のスケジュール通りにテキパキと作る職人芸の人。
間違っても文学性とか、芸術性は追わない。
三十四年前の古い映画であったが新発見があった。
三人組のギャングの一人が若き日の役所広司であった。チョイ役だ。
現在五十八歳、日本を代表する名優である。こういう発見があるから古い映画は面白い。
¥もう一人若い死刑囚役に石田純一がいた。二人共苦労して今日を築いたのだ。
映画野郎に愛された監督が中島貞夫だ。
片岡千恵蔵から三船敏郎、佐分利信、鶴田浩二、高倉健、若山富三郎、藤純子、桜町弘子、菅原文太、山城新伍、みんな中島貞夫大好き役者さんであった。
現在は大阪芸大で若手の育成をしている。教育者としては超一流なのだ。
熊切和嘉、石井裕也、呉美保、橋口亮輔、山下敦弘をはじめ現在日本の映画界で数々の受賞をしている監督たちは中島貞夫の教え子だ。
ちなみに死刑囚役で出ていたのは、磯部勉、汐路章、高橋昌也、愛川欽也、室田日出男などであった。スターの影で頑張る大部屋俳優から小林稔侍や川谷拓三などの多くのスターを生んだのも中島貞夫だ。人間にはそれぞれ生まれながらの役柄がある。
若い人材を残している監督に敬意を込めて、いつものグラスに日本酒を入れて乾杯をした。何!映画の出来栄えはだと、それはもう期待通り、目茶苦茶三流作品だった。
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