先日有楽町で若松孝二監督の「キャタピラー」を観た。
寺島しのぶが今年のベルリン映画祭で最高優秀主演女優賞を受けた作品だ。
1時間27分、圧倒的なメッセージ性のある映画に驚愕した。
若松監督73歳、今最も世界の映画祭で光り輝く存在である。
かつてはピンク映画屋といわれ蔑まされた。しかし低予算の中で猛烈な早撮りの名手で独自の名作を生んでいった。今回の作品もなんと14日の予定を12日間で全てを撮り終え編集はわずか3日であったという。
ワンシーンに何回もだめ出しをし、ワンカットの為に一週間も十日もかけた小津安二郎監督、黒澤明監督、溝口健二監督たちとは対局にある。基本的にワンテイクである。
CM作家はスポンサーから沢山の予算を貰っているから一秒のカットの為に何テイクも撮る。それが当たり前となっている。誠に映画とは似て非なるものなのだ。
「実録、連合赤軍あさま山荘への道程」は三時間くらいの作品であったが、どの赤軍派映画も圧倒した。年を重ねる事に凄味を増し若々しい完成を発揮し凄まじい表現をする。
宮城県の高校を退学、中退し数々の職業を経てヤクザの世界に入る。ある時映画作品の見張り役兼手伝いをした事により映画の世界に身を投じる。映画の世界もヤクザな世界だからスムーズであったのだろう、その後ピンク界で伝説の映画を発表し続ける。
海外の映画祭に出品してブーイングを浴びる、それでも何のその不屈の魂で今やカリスマとしてリスペクトされている。勿論私もその一人だ。
午後12時40分上映開始、映画館は満員だ。寺島しのぶが両手両足を失い、聴力も失い、顔も奇形となって帰還した夫をみて驚愕する。夫は「軍神」そして大日本帝国新聞の一面に紹介されている。村の人々も「軍神」様と崇めるのだ。
「キャタピラー」とは日本語で「芋虫」夫は芋虫になって帰って来たのだ。かつて「ジョニーは戦争に行った」というやはり両手両足を失って帰国した兵士とそれを看護する女性との物語の名作があった。江戸川乱歩の作品に「芋虫」というのがある。多分にその影響を受けたのだろうが若松孝二監督は見事に最高峰のメッセージの映画に仕上げた。
全裸、騎乗位、全裸、騎乗位の繰り返し。
人間国宝尾上菊五郎と富司純子の娘寺島しのぶはここまでやるかというまで「夫」の食欲と異常な性欲に応える。だがしかし一方では「夫」を性の道具として自らの性欲を満たす。時として芋虫は肉の塊として寺島しのぶの上に乗る。その演技は絶品である。
ノーメイク、お尻の割れ目もアップで出し自ら夫のモノを何度も入れる(夫は手がない)その映像は神聖的ですらある。
ここまで演じたら断トツの世界NO.1だ。
寺島しのぶの夫のでっかく毛深いフランス人を知っているだけに尚更リアリティを感じた。
「忘れるなこれが戦争だ」と若松孝二監督は記した。
どうしようもなり映画ばかり観ていてうんざりしていたこの頃思わず立ち上がり拍手をしたくなった。「元ちとせ」の歌う主題歌が切なく悲しく心に刺さる。
一人でも多くの人に観て欲しい。低予算早撮りに拍手だ。
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