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2010年9月10日金曜日

湘南の嵐便り 「栄華の五目中華ソバ」


私は五目中華ソバが好きである。

旨い店があると聞けば洋の東西を問わずその店に行ってみる事にしていた。
結果、いかに名のある店もこの「栄華」には勝てない。

栄華の外観
一見不景気のあおりを受けて閉店した訳ではない、私が通り過ぎた日丁度定休日だったのだ。


「栄華」といっても栄耀栄華を極めた訳ではない。
「栄華」を辞書で引いてみると世の中にときめき、栄える事、贅沢。英語ではプロスぺリティと書いてあった。

この店は私がかつて住んでいた藤沢市辻堂の住宅街にある。
昔から正直汚く、今は更に汚くなっている。かつては夫婦でやっていた。入って直ぐ左に五人掛けのカウンター、その側にマンガ本のはいっている書棚がある。右に四人掛けのテーブルが二席ある。見上げると古いテレビ、顔を横にすると冷たい水が入ったタンクがある。

奥さんはかなり前に病気で亡くなった。愛妻家であった店主は暫く店を休んだ。
私は月に二度この店の30メートル位のところにある床屋さんに行く。今住んでいる茅ヶ崎から自転車で15分位である。

ある日床屋さんに行くと「栄華」がまた始めたよといわれた。何でも娘さんが手伝う事になったとか。あっそうじゃあ五目中華ソバを食べに行こう、色んな店で食べたが「栄華」が一番、次がやはり小さな店だが銀座二丁目にある「菊鳳」だ。どんな一流店もこの二軒には及ばない。

栄華の中華ソバ

正しい五目中華ソバには、切り身を入れたイカ、カニかま、ゆで卵(二分割)、伊達巻き、チャーシュー、筍、青梗菜、人参、かまぼこ、白菜、ネギ、キクラゲ、小さな海老が絶妙の味付けで入っていて美しく麺の上にデザイン的にレイアウト、ディスプレイされていないといけない。麺は細めがいい、つゆは白濁の色合い、塩の味加減で決まる。

ほんのりした塩鰺がいい。少し垂らしたラー油と少しかけたコショウと食べる事にしんなり、はんなりコラボレーションしていく。スープは飲む度に深味が出て来ないといけない。
この決まりというか掟を守っているのが「栄華」と「菊鳳」だ。
菊鳳外観

菊鳳の中華ソバもこれまた絶品!

「栄華」に入るといらっしゃーいと若いはずだが老け顔の小柄な娘、父親は髪の毛がほぼ無くなり扇風機の風に残り毛がそよいでいた。首には日本手拭いがネジのように絞られ巻かれていて汗まみれだ。やがて五目中華ソバの登場、久々だ、ご対面だ、相変わらずほれぼれするお姿ではないか。

まずレンゲでひと口スープを飲み目に涙が浮かび、箸を投入し麺をすする。
美味しい泣ける程美味い。目から一筋涙がこぼれた。750円なりだ。


ホテルオークラの「桃花林」だと2800円(?)、銀座アスターだと1800円(?)。
全く勝負にはならない。親娘仲良く言葉を掛け合い励まし合いながら働いている。五目入りました、ハイわかりましたなんて調子で。

娘が汗を拭いている父親に冷たい水の入ったコップを差し出す。
お客さんが入って来た、一人は担々麺と半チャーハン、一人はレバニラ炒め定食を頼んだ。


おっといけねえ床屋さんが終わったら秋刀魚と浅利の味噌汁で昼メシ食うぞと言って出て来たのを忘れていた。

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