少年の頃傷害で初等印旛少年院、出所後殺人で久里浜特別少年院、出所後広域暴力団の若衆に。体半分は刺青が入っている。
左手の小指は第二関節、右手の小指は根元からない。
現在56歳。バリバリの親分であり直系の若衆も七人いる。
その男がすすり泣く。
やっと生まれた男の子が死産だったのだ。
バチが当たった、バチが当たったと白い髪ばかりになった頭を下にして。
その日家の奴は留守だった。
家の外にベンツに乗った若者が二人いるので少しずらしてくれと言った。
亡くなった母が少年院を出て挨拶に来た時、もう馬鹿は止めなさいと言った時、自分はこの道しかないので必ず親分になりますと言った。
荻窪駅南口の飲み屋街で喧嘩になり短刀で刺した。
刀は背中まで突き通っていた。何回も面会に行ってやった。
久里浜の特別少年院で水泳の教練が厳しく水泳が苦手な自分には死ぬより辛いと言っていた。こんな狭い家にいてもしょうがないから海でも行こうと海に向かった。
男は涙を拭った。
海辺の防波堤に座り語り合った。
お前堅気になりたいんだろと聞くと今更堅気にはなれないと言って笑った。
何しろ極道の世界も金、金、金の時代だから。
会長代行の奴とどうにも合わないんだ、どうしても我慢出来ない事が何度かあった。
この間若い者連れて夜中さらって片を付けたかったのだが何処で嗅ぎつけたか家に行ったらガードの堅い事、それ以来禁足にされてしまった。未だ破門まではいってないんだが。ガキの頃から博打で生きて来たから。
デリヘルや乱交パーティやシャブや美人局などは絶対やれない。
しっかりケジメつけるか、トコトン堅気になって笑われるかどっちしかないかと私は言った。
お前は元々金筋の親分になるために生まれて来た様な男なんだから、半竹に身を引いたら一生追い込まれるからな。その後男がどの道を選んだかは判らない。
秋の海辺に赤とんぼが飛んでいた。
私は確信するのは必ずあの男は自分でケジメをつけるだろう。
その男の女房になったのは私が育った街のいいとこのお嬢さんだった。
いつもバイオリンを持っていた。56歳の後輩が新年をどこで迎えるかは判らない。
男が惚れ惚れするいい男だった。
ちなみに若衆から一番嫌われる極道(ヤクザ)は
一、金儲けしか頭にない。
一、金にブシイ(シブイ)
一、人を信用しない、銀行は全て自分で行く
一、飲み代を値切る
一、語る(人の名を借りる)
一、フケる(いざという時逃げる)
一、歌う、チクる(密告)(パクられた時直ぐ喋る)
一、スゴム、これ見よがしに自分の女にスゴム。女に手を上げる。
一、フカス、小さな話を大きくするラッパ。
一、ジャッキを入れる、自分で出来ないので人をのせる。
一、根性がまるでない。楊枝一本で刺されて青くなる。血に弱い。
一、銭に異常に汚い。貯めたがる、金の離れが悪い。
こういうチンケな奴人はいつか必ず沈む。
多分狙うその相手はこれらを全部満たしている筈だ、シャブや女の子の体を売って得た金だけでのし上がって来た男なのだろう。
えっ、私の上司もこんな男だって!?
すっかり筋の通った男が居なくなってきましたね。
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