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2016年3月15日火曜日

「デンデン虫」




天才と狂人は紙一重というけど、殆どは狂人だと思う。
「見知らぬ乗客」や「太陽がいっぱい」最近では女性の同性愛を描いた映画「キャロル」の原作者パトリシア・ハイスミスもその一人だ、ハイスミスは人付き合いが苦手で、孤独だった。執筆の喜びの源というよりは強迫観念のようなもので、仕事がないと苦しかった。

リラックスして仕事をするために、ベッドの上にすわり、タバコと灰皿、マッチ、コーヒーの入ったマグカップ、ドーナツと砂糖を盛った皿をまわりに置いた。
胎児のような姿勢で書くことによって、彼女の言葉による“自分の子宮”を作り上げた。
執筆前には強い酒を飲む習慣があり、躁状態といえるほどエネルギーを高めた。

毎日大量の酒を飲む、ベッドの脇にはウォッカのボトルを置く、その日飲む分量の印をつけた。生涯通じて強い煙草のチェーンスモーカーであった。
食事はアメリカベーコンと目玉焼きとシリアルだけ。
動物が好きで、とくに猫とカタツムリに特別の愛着を感じた。

ある時魚市場で二匹のカタツムリが奇妙な形で絡み合っているのを目撃したのがきっかけで、三百匹のカタツムリを庭で飼うことになった。
カクテルパーティーにレタス一個と百匹のカタツムリを入れた巨大なハンドバッグを持って現れた。百匹のカタツムリは彼女の夜のお伴だった。
六匹から十匹のカタツムリを乳房の下に隠した。

彼女が同性愛者だとしたら二人の間というか、二人の体中にカタツムリが吸い付き、ヌメヌメと動いていたのだろうか。稀代のミステリー作家はやはり天才であり、狂人であった。強い酒を飲み、強い煙草を喫い、砂糖をナメナメし、カタツムリを愛す。
“太陽がいっぱい”でなく、“カタツムリがいっぱい”だった。

冷たい雨に打たれながら家の前の公園を歩いていたら一匹のカタツムリが木の葉の上でくつろいでいた。手に取ろうとすると強くそれを拒否した。
季節は狂いすでに梅雨入りかと思った。
三月十四日のカタツムリは、はやすぎではないだろうか。
その習性を私は知らない。

映画「キャロル」の評判はすこぶる高い。なんとか観に行きたいと思っている。
同性愛の名作とカタツムリの美しい関係を。ガキの頃はデンデン虫と言った。
この世にはナメクジみたいなカタツムリみたいな人間も多い。
※参考文献「天才たちの日課」フィルムアート社刊、メイソン・カリー著、金原瑞人・右田文子訳

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