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2017年4月3日月曜日

「天津甘栗」




年度末三月三十一日金曜日、天気予報は当たり午後から雨、夕方から冷たく強くなる。
傘を持たない主義の私のオーバーコートは、雨に濡れて重くなっていた。
カバンの中にはイロイロ入っていてこれも重い。

午後九時四十二分、小田原行きに間に合ったが、新橋駅ホームは人でギッシリ、あと10分位待てば平塚行きが来るのでそれを待つことにする。
せっかく買ったグリーン券だから座って帰りたい。
そこに構内放送、神田駅線路に人が入っていますので列車が遅れますと。
人とヒトは続々と増える。チキショウツイテネエなと思う。

シネマート新宿の最終回で観て来た韓国映画「哭声」の狂気の二時間半近くが頭に浮かぶ。映画館のフライヤーの棚の中から新作のものを10枚ほどカバンに入れていたので、それを出して読むが頭には入らない。駅のホームは不気味な日本人の顔ばかり。

十数分遅れて平塚行きがずっしりと入って来た。すでにグリーン車内は満杯であった。
座っていても座れなくても、等しくグリーン車代はとられる。
私は左ドア口と右ドア口の真ん中に寄りかかって、フライヤーを読んだ。

ギューギューの横に小太りの男32、3才。
両手に指先の出る手袋、灰色に白ヌキでadidasの文字、髪の毛が多く脂ぎっている。
武田鉄矢さんを丸くしたような男。
TUMIの黒いカバンを下に置き、両足でそれをはさんでカバンから出したのが“天津甘栗”の大きな袋。

斜め目前に役所の係長風51、2才の男、笑うと八重歯の大きな27、8才の女性。
バカヤローな二人は盛んにチュッチュとキスをしている(かなり酔っている)。
メガネの男が黒い傘を手にしていたのだが、それが斜めになって私の足先に触れる。

混んでいる所で天津甘栗をプチッ、プチッと爪で割って口に入れる男、割ったら欠片が下に落ちる。
はじめはいい香りだった天津甘栗も一つ、二つ、三つとプチッ、プチッと続くとイライラして来る。武田鉄矢さん風が私の顔を見た。気のせいか笑って見えた。
足先には傘の先、全然美人じゃない部下(多分)と全然冴えない男。
頭の中には韓国映画のオドロシイ農村のシーンが浮かぶ。

何個入ってんだ天津甘栗は、十、十一、十二、チキショウなんてこったと思いジッと我慢していると、列車がブレーキをかけた。足の先に触っていた傘の先が強く触れた。
それを足で蹴り上げた。何やってんだよと低く恐い声で言った。
ついでに、いつまで食ってんだよ、食べかすちゃんと拾えともっと恐い声で言った。
そのスペースには七人いて下の階段に二人いた。

東海道線のグリーン車はニ階建てで、一階入り口には八人座れるところがある。
列車はかなり徐行運転だった。これでも相当にやさしくなった私だった。
乗客は黙して語らずだ。列車はやっと川崎に。

役所の上司と部下風はズルズルと押し出され、天津甘栗男はカバンの中に天津甘栗をしまいこんだ。川崎駅ホームで待っていた乗客がグイグイ入って来てギューギューとなった。役所の上司と部下風がところ天を押し入れるようにまた乗って来た。
男は黒い傘を胸に抱いていた。

私が足を動かしたら足の下に天津甘栗の欠片があってそれを踏んだ、ガリッと音がして欠片は粉々になった。むかし荻窪駅北口前で天津甘栗を炒めていた後輩を思い出した。
私は実のところ、天津甘栗は嫌いじゃない。
上手に割る方法を後輩から教えてもらっている。

やっとこさ家に帰り、深夜から朝まで新作「SCOOP」と「ミュージアム」「聖の青春」の三本を見た(新作レンタルは二泊三日)。それについては後日。

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