夜空に向かって鎖に繋がれた、犬が鳴いている(柴犬だと思う)。
飼主がエサ入れに入れた数日分のエサは寒さで凍りつく。
飼主は数日に一度一時間余をかけて車で愛犬にエサや水をやりに来る。
原発事故で避難して以来ずっと続けている。
仮設住宅ではペットを飼えないからだ。
車から飼主が降り、近づいて来ると愛犬はちぎれんばかりに尾を降り、クルクル回り飛びつき最大級の喜びを表現する。
丈夫な鉄の鎖は野犬にならないための飼主の愛情であり、自由を奪う悲しい行為でもある。
「お前胴回りが随分細くなったね」とタオルでほうかぶりした老女は涙を流しながら体をさすってあげる。沢山入れてあげたエサが夜中、ネズミに食べられてしまっているのだ。
その数一夜で延べ二百数十匹。手作りのご飯を持って来ると、愛犬は気も狂わんばかりに一気に食べ尽くす。そして数日間に一度の楽しいお散歩だ。
「家族一緒に、愛犬と一緒にここで明るく楽しい生活をしたい」と老女は涙を流す。
この老女にもしもの事が起きたら愛犬はどうなるのだろうか。
農家の納屋に繋がれた愛犬は骨と皮になり、命果てるまでそこに居なければならないのだろう。
老女が帰途につく時、愛犬は決まって大きな農機具の向こうに回り顔を隠す。
また来てくれる日までの別れが辛く悲しいのだろう。
愛犬の名前は「太陽」であった。
三年間鎖に繋がれている土地の名は「飯舘村」である。
深深たる冬の夜、黒い雲がゆっくり流れ動く、その合間に青黒い夜空が見え隠れし、月が顔を出し静かに輝く。まるで狼の遠吠えの様に「太陽」は「月」に向かって泣き続ける。
天地の怒りは地震帯の上で生きる日本人に何を教え、何を暗示したのか。
ペットを愛する人も、そうでない人も、原発を必要とする人も、しない人も、「太陽」と「老女」の鳴き声を聞き、明日のためにどうすべきかを学ばねばならない。
どうしようもない男がNHKの会長になったが、必死に被災地の今を伝えようとしているNHKのスタッフたちがいる。
数えきれない犬や猫。鳥や虫も、鯉も金魚も、亀たちも愛してくれた人と一緒に暮らす事が叶わない。
二十九日(水)夜九時三十分、NHK「ニュースウオッチ9」を見て思いを広げた。
日本人同士が争っている場合ではない。地球に住む事を許されている(?)
日本人の問題なのだから。
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