地球に人類が誕生し、群れて集団を形成した時から人類の歴史、ヒト、人間の歴史は裏切り、寝返り、密告、権力闘争の歴史であった。
古代から現代に至るまで人間と人間は終りなき争いの中にいる。
人類平和を願うがそれが叶うことは永遠にない。
12月1日、高倉健さんに次いで菅原文太さんが81才の生涯を終えた。
彼の演じた広島のヤクザ戦争の主人公は、東映の生んだ映画史の中でも特筆すべき映画「仁義なき戦い」シリーズの主人公であった。
この映画が何故ヤクザ映画なのにあらゆる階層の人々から絶大な支持を得たか、笠原和夫の生々しい言語が銃弾のように飛び交う、過去に例のない脚本、深作欣二監督の斬新を極めた演出、鮮烈な音楽、この映画の中でえぐり出されたのは、正に人間の深層心理劇であった。
人間は弱い、人間は汚い、人間は恐く怖ろしい。
人間は裏切り、寝返る。人間と人間は金と権力と縄張りと利権を巡って非情なまでに殺し合う。
この映画は実話を基にしている。
中国新聞はあらゆる脅し、脅迫、暴力、襲撃に負けず、暴力許すまじと新聞に記事を連載し続けた。その記録は「ある勇気の記録」として残っている。確か菊池寛賞を受賞した。
菅原文太さんが演じる、広島呉の組長が獄中でそのヤクザ戦争について手記を出した。
昨日の友は今日の敵、敵の敵は味方、大都市の巨大な組織と地方の組織との意地と意地のぶつかり合い。仁義なき戦いの中で、その仁義を信じ人を殺し、殺される若者たち。
私は日本映画史の中でベストワンといっても過言ではないと思っている。
事実ある調査によると、日本人が選ぶ映画ベスト10に於いて。
1位「七人の侍・黒澤明監督」の次の2位に選ばれている。ベストテンの中に2作選ばれている監督は、深作欣二さんしかいない。もう1作は「蒲田行進曲」だ。
仁義なき戦いシリーズ第1作に、確かこんなやりとりがある。
刑務所から出て来た菅原文太に、組の若頭はホテルのベッドの上でポツンとこういう。「オレはよォ、毎日夜になると堅気になろうと思うんじゃ、だがよ朝になってよォ、若い者たちに囲まれると忘れちまうんじゃ」この若頭には赤ん坊ができていた。
菅原文太演じる呉の組長はこういう。「ヤクザ者がよォ、そげな弱気を持ったら危ないじゃけん。身引いて堅気になりなよ」と。
二人は若い頃からの仲間同士だった。若頭はその後襲撃され、殺される。
終りなき仁義なき戦いのはじまりであり、その戦いは広島の軍港呉から広島へ、そして日本中が抗争の渦の中に入っていった。
今日12月2日、大義なき解散による衆議院選挙の火蓋が切って落とされる。
全国津々浦々で仁義なき戦いが公式に始まる。この戦いに最大な力を発揮するのは一票を投じる国民だ。この一票はどんな武器よりも強い。
信条、思想は自由、棄権という逃げを打ってはいけない。どこかに必ず一票を。
(文中敬称略)
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