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2019年9月4日水曜日

「赤いウィンナー」

対面(トイメン)同士の店。私の主な仕事場は銀座2丁目。この近辺で何度か引っ越したが、ほぼ50年銀座で芸を売っている。仕事場から京橋方面に歩いて3分ぐらいのところに名もなき小さな公園がある。その斜め前地下1Fに「銀つね」というかなりレトロな飲み屋がある。初老の夫婦、主人は社交ダンスをしているようだ。写真がべたべた貼ってある。店内にはいつも小林旭の名曲が流れている。古いスピーカー がある。常連たちが来る。私の仕事仲間はここが大好きだ。ご夫婦はとてもかんじがいい。主人は私の人相が悪いのでお酒を注いでくれるとき、ブルブルと手先が震える。冷奴、赤いウインナー炒め、厚揚げ豆腐、ヤキソバ、肉ヤサイ炒めなのが定番である。むかしながらの店好みにはたまらない。マイナーな店である。その店の対面(トイメン)にある年、ポツンと一軒のイタリアンレストランができた。昭和通りの一本裏で人通りは少ない。路地裏の角っこであった。こんなところにイタリアンなんかつくって、大丈夫かなと思った。オープン当時はガランガランで人が並ぶことなど見たことがなかった。ある年になると、朝8時、9時から人が集まり出した。店の前の木の椅子に女性たちが腰掛け、予約名を書いていた。オッ、オッ、オッ、何があったか。ある情報でとにかく旨い、安い、新しい。サイコーだと広がり「予約のとれない店No.1」となった。LA BETTOLA da Ochiai(ラ・ベットラ・ダ・オチアイ)、「LA BETTOLA」はイタリア語で食堂というらしい。オーナーシェフが落合務さんであった。落合さんはママチャリによく乗って、店の近辺を走っていた。ステキなオジサンである。その落合さんの連載コラムがある新聞で始まった。昨日はその第2回。なんと落合さんの父親は6度結婚して、6度離婚していた。親に反発して、名門一貫校の高校を中退して料理人の道に進んだ。今は月の半分を後進の指導のために全国を回っているとか。一度コーヒーメーカーの仕事に出演を依頼に行ったが、そのときは「一社だけは、ダメナンダヨネ〜、ワカッテ、ゴメン」と言われた。落合さんは魚海岸や野菜市場に行き、半端ものや、形崩れしたものを安く仕入れて来て、絶品の料理にする。だから値段を高く設定しないのだ。だからお客さんが集まるのだ。「食堂だからネ、安くて旨くないと」がモットーなのだ。落合務さんが銀つねに行っているか分からない。対照的な二つの店の前を歩いて通ると、何だかうれしくなるのだ。「銀つねよ、がんばれ」と声をかける。「社交ダンスで優勝しろよ」と言う。以前行ったとき、私の好きな小林旭の曲がなかった。「ダメじゃないの」と言ったらブルブルッとした。銀座の一等地にたくさんの名のある店があるが、これはと思うお店は、高くて気どっていて、たいした味はしない。能書きの多いイタリアンが増えて、ワゴンにのせた料理をイチイチ詳しく説明する。一度「ウルセイ、食べれば分かるよ」と言ったら、シュンとした。今流行らしい。「銀つね」なんか、何も説明しない。メニューが豊富だから、一度ぜひ行ってやってほしい。一人1000円〜2000円で十分気持ちよくなる。小林旭の「さすらい」「北帰行」「純子」「昔の名前で出ています」、これを聞くとたまらない。年に二度ぐらい行くのだ。ラ・ベットラ・ダ・オチアイは、現在夏休み中。
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