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2020年1月10日金曜日

第2話「カレンダー」

私はカレンダーである。ある生命保険会社が制作した。数字だけのものである。紙型はA2型だ。カレンダー界では、数字のことを「玉」(タマ)というらしい。私には絵もなく写真もなく、気の利いた言葉もない。「玉」だけである。カレンダーは次の年のスターであり、その年末にはくずとなる。「玉」だけのカレンダーは実用的である。美術的ではないので、しゃれたキッチンとかしなびた台所の目立たない壁に、強力なマグネットやテープで貼られたりプッシュピンで刺される。上部にそのための穴があけてあるから、その時は痛くはない。ほとんどのヒトはクルクルと、丸くなっている私を広げて伸ばす。次に表紙の部分を左から右へ、バリバリと剥がす。人によってマチマチだがゴミ箱に捨てるヒトや、ていねいにたたんでたまった新聞紙を入れるところに入れてくれる。表紙の処分の仕方でそのヒトの性格が分かる。血液型も分かる。性格的趣向も分かる。子どもへの教育も分かる。私はカレンダーの分際をかえりみず、結婚前のヒトビトに、包み紙の捨て方や新聞回収日の出し方などで、そのヒトが分かるから、しっかり観察をと言っている。成田離婚の原因の主なるものに、強烈な歯ぎしり、強烈なイビキ(無呼吸症候群)すごく臭いオナラ、食べ物を何度もつっつき回し、クチヤクチヤ食べる音、買い物をしてきた包装紙の捨て方、ナイフとフォークの使い方、決定的なのは下手なSEX。これらは男女相方に言える。結婚前付き合っている時は、それらはあまり気にならないものだ。12月31日、私は12月分をバリバリと剥がされた。家主は59才の男で新しい年に停年となる。路線バスの運転手地方公務員である。血液型はA型、妻はB型、統計上一番離婚率が高いらしい。男は新しい年を迎えるのが嫌で、妻に頼んだ。27年前新婚旅行である地に行った時、お土産を買って来て旅館に戻った。その時、包み紙をバリバリ破って、コネコネ丸めて部屋の隅っこにあった、丸い筒型のゴミ箱に押し込んだ。グシャグシャになったのを次々に押し込んだ。丸い穴から包装紙がハミ出ていた。その時は見た目と違って、ずい分と男みたいだと思った。知り合って八ヶ月で結婚したのだが、その間ホテルに泊った時、こぎれいに処分していた。一度SEXした後、体のアソコをふいたティッシュを丸める、入るかしらとデスクの側にあったゴミ箱に放り投げた。丸めたティッシュは入らなかった。その時はとてもかわいいなと思った。しかし月日は経ち男A型、女B型の相性の悪さは、かなり正しかった。バリバリと音をたてて剥がされた12月分の私は、立てに、横にと破られて、コマ切れみたいにされて、籘でできたゴミ箱にバラバラと捨てられた。来年二月で停年だからスケジュールを書くこともないわね。だからこれにするわと、私のライバルである大きな写真入りのカレンダーにされた。「玉」だけの私のプライドが傷ついた。あなたは全然美的センスがないわよね、この数字だけのダッサイカレンダーみたい。もう見たくないわ辛気臭いから、と言われた。新しいカレンダーには三毛猫の親子が写っていた。次の日私は粗大ゴミとして公園の側に置かれた。アスファルトの冷たい感触がした。二人の間には一度子ができたが残念ながら流産した。その月、私は赤いマジックで大きく×点を書かれた。私の主人である公務員はひそかに離婚を考えている。心の中のカレンダーにその予定日が書き込まれているようだ。来年のカレンダーは猫か、かわいいな、なんてつくり言葉と、つくり笑いをしている。流産以来SEX恐怖症的になった妻とは、すでに赤の他人である。「玉」だけのカレンダーである私は、使用されずとなり、ビニール袋に丸めて入れられ、どうやら新年早々、粗大ゴミに出されるようだ。バリバリと破られたのでヒリヒリと痛い。
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