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2020年1月15日水曜日

第4話「私は箱」

私は「箱」である。通常は大きな楽器類が入る。手品師の引田天功氏とかも似たような箱を使い、女性を中に入れて、サアー、イラハイ、イラハイとお客さんを景気つけて、大きな刀でブスッと突き刺す。仕掛けがなければ殺人行為なのだが、警察沙汰になることはない。女性はうしろの方とか、下の方とかに隠れている。昨年末12月31日除夜の鐘が、ゴーン、ゴーンと鳴っている頃、カルロス・ゴーンというという悪党が、私の友人の箱にもぐり込んで、故国レバノンに出国した。私が仲間の箱たちから聞いた話では、日本の出入国管理はとにかくロトイ(トロイ)。特に外国人には、小学校の放課後を知らせる音楽、トロイメライのようにトロイ。国境線のない島国なので、船で入りやすく、飛行機で逃亡しやすい。「ガタガタ言ってないで、さっさとしやがれ! こちとらは急いでいるんだ」なんて言葉を、英語やイタリア語や、ロシア語やフランス語でまくし立てられると、OK、OK、「OK牧場の決闘」みたいにやられてしまう。何しろ外国人に弱い国なのだ。私なんか海外に行ったら、全部日本語、誰か日本語が分かるのを呼べと言えば、OK、OKと言って探して来てくれる。ハ~イボスなんて言って現れたら10ドルをチップに渡せば、もっとOKとなる。箱には箱のプライドがある。ゴーンが何を言っても、逃亡者である事実は変わらない。デビット・ジャンセンの逃亡者とは違う。ゴーンの妻も手配されたから ボニーとクライドに近いが、それほどスタイリッシュじゃない。世界の重要な逃亡者はバチカンが仕切ると言う。あのチェ・ゲバラもバチカンがボリビアに逃したという。逃亡や亡命はビッグビジネスなのだ。アイヒマンもそう言われている。逃亡者は金を持っている間は、命は保証されるだろうが、金が細くなって来たら、ただのジャマ者に過ぎない。匿っていては面倒なことになる。で、密告となるか、仕末するのが過去の例だ。カルロス・ゴーンが次に入る箱は、きっと私よりずっと細長いものになるのではと思う。私の古い友人である、棺桶という箱だ。生きて逃げ続けたかったら、引田天功先生に全財産を渡すしかないのだ。私はただの箱だから話の中身はスカスカでしかないことを断っておく。ちなみに裏社会では、交番のことを「箱」と言う。箱に自首してくれば、刑は少し軽くなる。金を追う人間は、金に追われるのがこの世の掟である。金がなくなればそれで終り。金に執着するのを、あいつは貯金箱だという。巨人軍V9の名捕手、森昌彦氏の仇名は貯金箱と言われていたらしい。ゴーンは今、 いい湯だな、いい湯だなの気分。あ~あレバノンノンだ。

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