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2020年1月30日木曜日

第14話「私は辛抱」

私は「辛抱」である。人間辛抱だ”と初代若乃花(横綱)が何かのCMで言った。それを聞いたのは、私辛抱が十代の頃だった。初めて相撲部屋で朝稽古を見たのは二十代に近づいた頃だ。そこには、竹刀があり親方がおすもうさんのお尻をバッシン、バッシンひっぱたく。ぶつかり稽古でゴロン、ゴロンにされて気を失うと、バケツの水をバッシャーンとぶっかける。オリャーしっかりせい! オリャーガァーンと行けガァーンと、オリャー、オリャーであった。今なら100%パワハラで親方は刑務所行きになるはずだ。土俵には金が落ちている”と言うのが相撲界。しっかり稽古して番付を一枚、二枚と上げて行けば、いつかは十両関取に、そうなれば給料がもらえる。さらに幕内、三役、大関、横綱となれば、ワッサワサにお金が入る。ごひいきが(タニマチとも言う)一人、二人とつきはじめる。江戸の横綱より、オラが関取と言うほど、郷土の力士を愛す。例え序の口、序二段でも郷土の人々は、声援をおくり支援する。お米に、野菜に肉。水にジュースにお酒などを部屋に送る。カニとかメロンを人に贈って大臣を辞めるのは政界、当たり前のように清き一票を贈り物で得てはならないからだ。しかし土俵に落ちているお金を得るためには、食べて、食べて、食べなければ強くなれない。で、相撲界には食料、飲料などが支援物質として届く。ごっつぁんです”でいいのだ。初場所で幕内どん尻の「徳勝龍」が、その場所番付最上位の大関貴景勝に見事な取り口で完勝した。私辛抱は古女房とテレビを見ていて、ヤッタァ~、ヤッタァ~と大拍手をし涙をボロボロと流した。その前々日、尊敬する画家の先生が、徳勝龍が優勝する気がするんだけど、と言ったのを泣きながら思い出した。奇跡は奇跡的には起きない”と言ったのは、確か奇跡的に命を得て(ホテルから拉致された)大統領になった、「金大中大統領」だったと記憶する。拷問をたっぷり受けたためか、顔にはアザが残り、片足を不自由にしていた。きっと死を覚悟をしながら辛抱をしていたのだろう。徳勝龍はエレベーター力士といわれた。幕内と十両の間を上がったり、下ったりしていたからだ。私辛抱が泣いてしまったのは、この人は一度も休場をしないで、ひたすら土俵に上がり続けていたからだ。万年脇役に栄光が与えられたのだ。例えていうなら中学校しか出ていないが、ひたすら勉強、研究を重ねてノーベル賞を受賞したようなものだ。もう33歳でなく、まだ33歳と思ってこれからも精進しますと言った。相撲界の33歳は一般社会ではもう定年になる歳なのだ。弱者に栄光あれ、脇役に栄光あれだ。その夜私辛抱は、「サイドマン」というドキュメンタリー映画を見た。英語の題名は「Sidemen: Long Road To Glory」世界の音楽史上伝説のピアニスト最高齢(98歳)でグラミー賞を受賞した。ピアニストのパイントップ・パーキース、ドラマーのウィリー・ビッグ・アイズ” ・スミス、ギタリストのヒューバート・サムリン三人の物語だ。これがまた泣けて泣けて涙ボロボロなのだ。血も涙もない人間も、これを見たら泣く。ギタリストも、ドラマーも、徹底的に脇役だ。決してメインボーカルのジャマをしてはいけない。メインより目立ってもいけない。黒人にとって音楽は貧困から抜け出す数少ない手段であった。主役がギャラをみんな持っていく。サイドマンのギャラはわずかだ。パイントップの楽しみはマックのWチーズバーガー2個を一日2回、それにスプライトとアップルパイ。超ヘビースモーカーだ。だがこの脇役三人のテクニックは超一流であり、神がかり的であった。あらゆるミュージシャンに影響を与えた。ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトン、ビートルズ、ジミ・ヘンドリックス。天才たちの憧れだった。そして三人のサイドマンに栄光の時が来た。(ドラマーはなくなっていた。息子が代わりにトロフィーを受けとった。)2011年レッドカーペットの上を歩く時がきた。トロフィーを片手にパイントップ・パーキースは、こうスピーチした。最善を尽くしたよ”グラミー賞の会場は最高潮となった。ロックがどうして誕生したかを知りたい人は、この映画をおススメする。私辛抱はこれから徳勝龍とパイントップ・パーキースを師として学び直す。 









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