深夜一時二十五分、久々に種田山頭火の行乞日記を読んでいると外の公園が何やら騒々しい。部屋の蛍光灯三本の内、一本がイカレてしまって点いたり消えたりしている。
愚妻の部屋は公園に面している。私のまるで物置の様な寝室兼本置き場、絵の下書き部屋兼雑文書きのところに来て何か大変よと言う。
隣近所の犬たちがヒステリックに吠えている。玄関の電灯を点け外に出ると、そこはもう大騒ぎ。一人の女性(四十歳前後)を一人の男(やはり同じ位)が公園に。
既に女性は髪を掴まれ引きずり回され殴る蹴るはで大立ち回り。
トイメンの大京マンションも殆ど灯りが点き、この売女、売女、売女と言いながらバッコンバッコン蹴りを思い切り入れている。
やっと立ち上がろうとすると顔面にパンチ連発、鼻血はブーブー、口は裂けてザクロの様、手前この野郎、人が泥まみれになってガキの為に朝から晩まで働いているのに、昼オケなんかで知り合ったクソジジイとベイホテル(海岸の側)なんかにしけ込みやがって、恥を知れこの売女と言ってフリーキック。それがみぞ打ちにめり込んで女性は悶絶、服はビリビリ、下着は丸出し、ブッ殺してやると言った声は涙声。チクショウ人の事コケにしやがって。
あのジジイはさっきとことんシメテ、ケジメつけたから今頃は徳州会だ。手前はオロク(殺すの意味)にしてやるからな、チョットばかりいい女だなんて言われてその気になりやがってと言って、なんと公園のベンチの上からニードロップ。
そこで私がちょっと止めて来るわと言えば、愚妻が私の体といってもパジャマを離さない。それでも出ようと思うと普段は裸でパジャマを着ているのでお尻丸出し。
止めて絶対止めてと引っ張り続ける。そうこうしている内にパトカーが三台到着、どうしたんだこんな夜中に。ウルセイお巡りはすっこんでろ、夫婦げんかは犬も食わねえだ、黙って見てやがれと言った時、女の目はどす青く腫れて切れ、唇は明太子の様に膨れ上がり、肋骨にはヒビが入り、両足は腫れ上がり、もうリンチと同じ。
やっと愚妻の手から逃れた私がビーチサンダルを履いて、男が酔って女をシメたら終わりだよ恥かくだけだよ、早く徳州会に行って治療させなよと言うと、馬鹿野郎あの病院にはあの野郎がいるんだ。
じゃあ市民病院だ、お巡りさんボーッとして無線ばかりで話してないで早く連れて行かないと内臓破裂かなんかでいっちゃうよ、と言っていたらウワンウワンと救急車。男はワッパを掛けられ茅ヶ崎警察へ。いいか手前みたいな売女は出て来たら必ず殺してやるからな、と捨て台詞。その間ほぼ2〜30分。
オメエどこの誰だと言うからあそこに自転車が4台止まっている家だよ、来るならいつでもおいで、但し俺がいる時だぞ。もし俺以外に手を出したらお前の体を貰うからな。
お前みたいのを女を虐めるヤサ男って言うんだよ。(体が細身だった)
玄関に入ると愚妻が私の愛用の短い木刀を握りしめていました。
それから読み直した種田山頭火の心の清々しい事。その一節をご紹介。
「分け入っても分け入っても青い山」
「飲み過ぎの胃袋が梅雨ちかい空」
ちなみにこの事は事件にならず、男は二日留置されてパイ(釈放)になりました(妻が訴えなかった)。
その後一人の男の子、一人の女の子を妻が連れて青森県八戸へ帰ったそうです。
男は今スカイツリーの鳶職に精を出しているそうです。いつか八戸に迎えに行くと親方に言っているとか。夢は夜ひらくという藤圭子の歌が聞こえて来ました。
その夜何故か枕元に木刀がバスタオルにくるんで置いてありました。
私が本気で怒って暴れ出したらどうなるか愚妻は知っているのです。
キリンの麦焼酎白水をチビチビと飲んでいます。遠くから波の音が聞こえ、犬たちがまだウーウー唸っている。雨がシトシト、昼間見た歌舞伎の余韻が完全に消えました。
海老蔵のお殿様が酒乱の魚屋惣五郎にいいかつつがなく暮らせよと言った言葉だけが耳に残っていました。
1 件のコメント:
すごい出来事でしたね。何はともあれ、収まって良かったです。東本さんの周りがヒヤヒヤです。
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