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2019年5月11日土曜日

「三色のボールペン」

「ウルセイ!! いい加減にしろ」と言いたいことが列車の中では起きる。人間は単調な同じリズムや音をずっと聞いていると、「ウルセイ!」と言いたくなる。例えばメトロノームをずーっと聞かされる。柱時計の音をずーっと聞かされる。イビキやハギシリも同じだろう。成田離婚の原因の一つに、新婚旅行のイビキとハギシリがあるという(?)。昨日朝8時半頃、私は東京へ向かっていた。10時までに届ける大切な提出物があったからだ。朝刊2紙を持ってグリーン車に乗った。この時間は混む。空いていた席になんとか座れた。窓際に345歳の大柄の会社員風の方が、目の前にあるデスク板を引き出し、ボールペンを忙しくノート上に動かしていた。男は黒、赤、青の三色のボールペンを使っていた。何を書いているのか、大学ノートにポチッと黒、ポチッと赤、ポチッと青を繰り返す。はじめは全然気にならなかったが、じっと聞き出すと、そのピッチは実に速い。ポチッ、ポチッ、ポチッと続く。藤沢、大船、戸塚あたりになると、そのポチッ、ポチッ、ポチッが気になって、気になって仕方ない。チョコッとノートを見ると、三色を使って几帳面に何やら写し書きをしていた。横浜、川崎まで来ると、私はもう我慢の限界に来ていた。「ウルセイ!」と思い、実は何も言わず空いた席に移動した。私はかなり成長をしていたのだ。だいたい朝の列車の中でいかにも仕事をしているような奴は、使いものにならないのが多い。私も三色のボールペンを使うがこれからは気をつけようと思った。知人の精神科医が言っていた。まっ白い部屋に椅子一つ、それに座らせて一日中同じリズム、同じ音を聞かせ続けると、10日間くらいで気が狂い出すという。海外では思想犯を拷問するときに使うと言っていた。まっ白い空間というのは、人間を情緒不安定にする。キレイ過ぎる空間も同じらしい。無頼派と言われた小説家、故坂口安吾の有名な写真。書き損じた原稿用紙の雑然とした中で、ペンを持つ姿が憧れであった。キレイな部屋の一室で、パソコンを打つ小説家を私は買わない。


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