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2020年4月3日金曜日

第44話「私は座席」

私は「座席」である。私の仕事は主に店に来たお客さんを座らせることだ。私は木製であったり、布製やレザー張り、畳に座布団であったりする。私座席が何よりうれしいのは、私座席の上にお客さんが座ってくれることだ。新型コロナウイルスを感染させないために、飲食店での時間を自制すべしという空気になった。強制力はないがこれ以上の拡散は止めねばならない。私座席は、店のオーナーや、店主や、店長の客待ちの辛い顔を見るのは、ヒジョーに心地よくない。現実は厳しい。鴨せいろが人気の「銀座長寿庵」はいつも満席なのに、お客が三組しか座っていない。ちらし寿しが美味しい、「新富町寿し辰」はお客さん二人だけ。ハンバーグがマアマアの水天宮「ガスト」は、お客さんが二組と女性一人とガーラガラ。マカロニグラタンが旨い「茅ヶ崎ジョナサン」は、老人夫婦一組とオバさんたち四人だけ。あんぱんで有名な「銀座木村屋」私座席は、ここの3階のビーフシチューが好きである。その日は2階でミックスサンドと珈琲をオーダーした。お客さんは若い男女一組だけ。いつもは満員電車のような1階のパン売り場はガラガラ。下手なイタリアンレストランより、ここのパスタの方が全然いいと思う「銀座椿屋珈琲」はお客6人。ここの天丼がいちばんと信じる、「辻堂五島」にはお客さん二人。雨が激しいので仕事場の前にある「鮒忠」に行くと、誰もいない、で、入らなかった。私座席はこの現実を見て思わず悪夢だと口走った。この一週間、一人で、あるいわ友人と、又知人と行った店だ。それぞれ昼時だったり、少し遅めの昼だったり、夜六時頃とか、八時頃のことだ。私座席が行った時、丁度空いていたのかも知れない。(そう願いたい)私座席の会社も、今日からテレワークを始める。社内は空席だらけになる。パソコンもスマホもない、正しくは使えない私座席は手も足も出ない。オンボロのファックス機だけが頼りだ。私座席はお客が座ってこそその役目を果たす。昨日ボックス型タクシーに乗ったら、異常にていねいな若い運転手さん。私座席が座ると、ご乗車ありがとうございます。私は日本交通のです。ドアを閉めます。安全のためにシートベルトをお願いします。行き先をいうと、ハイ、×へ行かせていただきます。ハイ右へ曲がらせていただきます。エッ、スミマセン、ラジオはついてません、ハイ、左に曲がらせていただきます。800円払って降りると、ご乗車ありがとうございました。又、日本交通をご利用くださいとなった。何だか座り心地が悪かった。日本交通は徹底しすぎていて不気味だ。(セダンは腰が痛いのでなるべく乗らない)私座席は早くお客さんが、たくさん座ってくれる日が来るのを願う。悪夢よサラバと。昨日深夜から朝まで映画とドキュメンタリーを見た。映画は「人間失格」監督は蜷川実花。主役の太宰治を「小栗旬」、妻役宮沢りえ、愛人(A)を沢尻エリカ玉川上水で心中する愛人(B)を「二階堂ふみ」。坂口安吾を「藤原竜也」であった。出来栄えは、う~む人間失格への濃厚接触が希薄であった。ただ男と女が抱き合い、交わっても、人間失格とはならない。映像は色彩やなシーンと、思いっ切りダークにした、独特の蜷川ワールドであったが、美術のセットがいかにもバレバレであった。上映時座席にお客さんはたくさん座ったのだろうか(?)(つまりヒットしたかどうか)小栗旬はあと10年位年を重ねると、もっといい味が出るのではと思った。ドキュメンタリーは、アメリカで起きた女子高校生のレイプ事件。アニメと実写を使って実話を表現する。SNSによる噂さの拡散は恐ろしい。年頃の娘を持つ親とか、孫を持つジイジイ、バアバアが見たらゾッとする。ネットという暴力によって、女子高校生は自ら命を断つ。私座席なら最大限の復讐をする。午前五時二十四分二十一秒。外は明るくなっている。どんな政府案が出て来るかと思っていたら、国民一人ひとりに、布マスク2枚をと聞いて、私座席は席から落ちそうになった。その予算200億円、布マスクは全然「マスクデラックス」でない。(文中敬称略)




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