私は「胃袋」である。人間には空腹を満たす胃袋と、あらゆる欲望を満たす胃袋がある。四月六日月曜日午前五時十九分〇八秒書き始める。家にずっと居なければならないので、新聞を整理したり、読みかけの本を読んだりする。読書は苦手なのでやはり映画を見たり、落語とか浪曲を聞く。見逃していた諸外国のテレビのドキュメンタリー番組を見たり、世界のドキュメンタリー映画やドラマを見る。私胃袋は人間という生き物が、この地球上で最も性質の悪い生き物であることを改めて思った。人間は生きていくためには、何でも食べる。福山雅治は世界各地に行って写真を撮る。前夜コンゴの奥地で、チンパンジーやマウンテンゴリラ、ボノボという三種の類人猿を撮るNHKのドキュメンタリー番組を見た。それぞれ人間と同じ性質があった。オスを挑発するメス、そのメスを求めて死闘をするオス。勝ったオスは相手を引きちぎり、喰いちぎり、食べてしまう。地球上で自分と同じ仲間を食べる哺乳類はチンパンジーだけだという。(人間も人間を食べたという。戦争は空腹との戦いだった)私胃袋は思った。生き物には天敵が必ずいる。生き物の進化とは天敵から身を守るためのものだった。これは植物にもいえる。30メートル近いクジラから、木の中、土の中の小虫まで、人間は何でも食べて来た。人間には天敵がいないようであったが、ウイルスという天敵がいた。ウイルスは人間に入らないとその存在の意味がない。人間がこの世にいる限り、ウイルスは次々と進化して、人間を襲う。中国人はコウモリを食べてんだ、なんてオドロクが、人間は動く物はすべて食べる。動物園に行って動く物を見て、かわいいと言った生き物もすべて食べて来た。ウイルスは人間への復讐ともいえる。私胃袋の中に昨夜食べた。豚肉やアジや、明太子、ヒジキ、トマト、ピーマン、キャベツ、タマネギ、お豆腐に納豆、鳥の産んだ卵、チーズやバターなどが入っている。それぞれの食べ物には、たくさんの細菌が宿っているが、人間は進化しながらそれらと共生している。新型コロナウイルスは100年に一度の強敵といわれるが、テレビでは大食いを競う番組や、激辛を競うものや、食べ歩き、食べ物のメニューの人気当てなどで大騒ぎをしている。人間の欲望の胃袋は人間を殺してでも満たす。昨日古い映画を三本見た。一本は「イコライザー」大好きな「デンゼル・ワシントン」主演、元CIAの凄腕とロシアマフィアの果てしなき欲望との戦いである。当然何人も殺す。ハリウッドのパターン的映画だ。アメリカは善でロシアは悪の構図。二本目は近作「楽園」吉田修一原作、今売れっ子の監督「瀬々敬久」の作品、ある地方で起きた少女失踪事件。吉田修一ものは、実際に起きた事件を足したり、引いたり、掛けている。(他の作家も殆ど同じ手法)地方に透け込むのは、ヨソ者には並大抵ではない。地方には恐い因習が深く残っていることを、私胃袋は改めて知る。50年酒を飲み交わし同じものを食べ合っても、ヨソ者には、心を開かない。その土地には、その土地の過去があり、決して楽園ではない。三本目は、「エージェント」トム・クルーズの若き日の作品。13年位前のものである。スポーツ選手のエージェント(代理人)の話。アメリカのプロスポーツ選手の胃袋は、マネー、マネー、マネーである。駆け出しのエージェントであるトム・クルーズが、欲望渦くスポーツ界で、金と名誉を漁る仲間入りを目指す。つまんない2時間であった。プロスポーツ選手は、巨額のCM契約を取れるエージェントを選ぶ。午前六時三十六分四十二秒、テレビのニュースを見る。イギリスのジョンソン首相が入院。安倍総理明日にも緊急事態宣言とか。昨夜フジテレビの夜の番組で、嫌味なしゃべりの木村太郎が、今の日本はまるで小池総理みたいだと言った。安倍総理シンパの作家百田尚樹とか、経済学者高橋洋一とかが、いよいよ見限って反安倍メッセージ、次なる飯の種を探しはじめた。この者たちの好物は、権力者のおこぼれである。胃袋に毛が生えている連中である。有事の時に国のリーダーの資質がハッキリ分かる。カジノ育ちのトランプ大統領は、マスクは輸出しないと、ダッチロール状態で再選に赤信号。欲望を満たすにはもうトランプではダメだと、国際ユダヤ資本家は見限るだろう。私胃袋は紅茶とロールパンで空腹をやわらげ、朝刊を読む。お隣の奥さんが裁縫上手で、一夜にしてタオルからマスクを作ってくれた。すばらしい作品である。私胃袋は、これからの戦いのために、空腹に耐える訓練をはじめねばならない。(文中敬称略)
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