いじめられっ子だった幼い日、人の何倍も人見知りだった少年の日、そんな子を見て荒くれの父は自分の子に強くなれとボクシングを教える。
長男、次男、三男は、父にボクシングを教え込まれる。
ボクシングがずっと嫌いだったと長男はいう。
幼い頃離婚して母の愛情を受けなかった三人の兄弟は父親のために必死にボクシングを練習する。生きていくために、食べていくために、何より父のために、三人の兄弟はボクシングに活路を求める。負けたくない、その一心で接近戦をしない。
離れて打って、勝つボクシングに徹する。
引退を決めたその試合までボクシングは嫌いだったという。
一枚でも多くのチケットを売るためにヒールを演じる。
三人の息子がリングで稼いだファイトマネーは父がバクチですってしまう。
それでも三人の息子は父のためにリングに上がり戦い続ける。
好きでないボクシングを続ける。
それでも三人は世界チャンプになる、栄光は彼等に与えられた。
だがしかし、父は子への愛情過多のためにリング上、リング外でのルールや掟を破る。
そして日本のボクシング界から追放される。
視聴率30%以上を稼ぐ様になった三人の兄弟は世界チャンピオンとなり、そして負けて捨てられる。
日本のリングに上がれなくなった長男はアメリカで世界チャンプに挑戦して熱戦の末負ける。栄光の時代集まった多くのマスコミはいない、付き人もいない。
ベッドしかない小さなビジネスホテルで遠く離れた我が子とネットで語り合い続ける。
何したん、何つくったん、いい子にしとるねんと、一枚でもチケットを売るためには憎まれっ子を演じて盛り上げなアカンねんという。
相手のボクサーに対して心からその無礼をお詫びする。
ボクシングはほんま嫌いやったんやと。負けて引退を決めた試合、初めて納得する迄殴り合った。そして初めてボクシングが好きになったという。
でも再びリングに上がることはない。お父ちゃんのために負けるわけにはいかんかった。勝つボクシングより、負けないボクシングに徹した。
長男亀田興毅、次男大毅、三男和毅、どーしようもない父は良い息子三人を持った幸せ者だ。いじめられっ子を強くしたかんたんやという父の愛情はあふれんばかりであった。
男三兄弟に生まれた亀田興毅に三人目の男の子が生まれた。
新しい亀田三兄弟だ。◯◯ちゃん上手やねぇ、◯◯ちゃんええやないの、と小さな小さなホテルの一室で遠く離れた我が子と語り合う亀田興毅選手には、凶暴さも殺気もなかった。
本当の筋者は決して家庭を持たず子を持たずという。
いざという時ためらうからだという。NHK BSのドキュメントはそんな一人のボクサーと勝負の世界の厳しさをずっと追っていた。
子を持ったボクサーは一発一発のパンチを受ける時、我が子の顔が目に浮かぶという。
途方もない恐怖心が走るという。
フツーの家庭を作りたいと引退を宣言した亀田興毅選手はいう。
ベビーベッドにはその血を受けた三人目の男の子がスヤスヤと寝ている。
この子がリングに上がる日が来るやもしれない。
亀田興毅選手に勝ったチャンピオン河野公平選手もまた、父からボクシングを教わって来た。雑草の様に強く、礼儀正しいスポーツマンだ。ボクサーほど美しいスポーツ選手はいないと私は思っている。キングオブスポーツなのだ。
あなたの仕事は痛いですか、鼻血が出たり、目の上がパックリ割れたりしますか。
仕事に命をかけてますか。
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