猫の名は“ベーコン”であった。
私が小・中学生の頃、家には二頭のヤギ、四羽のニワトリ、小さな野菜畑、柿とイチヂクとビワの木、数十羽の伝書鳩、一頭の雑種犬(名はハチ)、養蜂もしていた。
自給自足である(鳩は食べない)。
そして真っ白い猫の名が“ベーコン”であった。
子どもの頃はその名の意味がわからなかった。
食べ物のベーコンはその頃一般的日本人の食生活には出ない。
長じた時、父親が哲学者ベーコンからとってつけたと聞いた。
私はベーコンを見ると猫の名を思い出した。
伝書鳩を何羽も襲ったので仲が悪かったが、ベーコンが病気になってからは仲良くなった。アイルランドにフランシス・ベーコンという画家がいた(1909〜1992)。
十九世紀最大の画家という美術評論家も多い。
そのベーコンの一日の日課をある本で知って「不眠症」の私は親近感を持った。
ベーコンは同性愛者であった。そこには親近感を持たない。
ベーコンは眠りにつくために睡眠薬にたより、ベッドに入る前にはリラックスするために、古い料理本を繰り返し呼んだ。一晩に二、三時間しか眠れない。
にもかかわらず体は健康(?)であった。
運動はカンバスの前をウロウロするのみ、ニンニク入りのサプリメントを大量に飲み、卵黄とデザートとコーヒーは控えた。その一方で一日にワイン六本、レストランで豪華な食事を二回以上の暴飲暴食を続けた。頭がボケることもなかった。
二日酔いになることもあまりなく、むしろ二日酔いの時の方がエネルギーが満ちて、思考が冴え渡ったという(メイソン・カリー著「天才たちの日課」より抜粋)。
天才たちは規則正しく不規則を繰り返す。殆どが不眠に苦しむ。
薬と酒に頼る。煙草と紅茶とコーヒーを多量に喫い込み、飲み干す。
愛する後輩が書いた高級羽毛ふとんメーカーのコピーを思い出す。
「ぐっすりが、いちばんのくすりです」
早いもので銀座一丁目キラリトギンザ3階、上質睡眠専門店oluhaオルハショップが一周年を迎えた。
国民の五人に一人は不眠症、もしくはいい眠り、いい目覚めをしていないという。
世にいる天才たちよ、いい作品を生み出すために、本物の羽毛ふとんでぐっすりと眠って下さい。安い羽毛ふとんは、ホコリとダニを吸いながら眠っているのと同じ。
“ベーコン”という名には東京都杉並区天沼三丁目での白い猫との思い出があるのです。
カリカリのベーコンをキッチリ作れるようになれば一人前のシェフといわれる。
あるホテルに名人がいた。未だにその名人を超えるカリカリのベーコンには出会っていない(オムレツも名人であった)。
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