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2009年12月29日火曜日

人間市場 取り巻き市篇

鉄火巻き、カッパ巻き、かんぴょう巻き、納豆巻き、ネギトロ巻き。旨いですね。
のりがいいんです。

ここに一つのりの悪い巻きがあります。
取り巻きです。これに巻き付かれるとたいがいの金持ち有名人もスッテンテンに巻かれてしまいます。一度見栄を張ったら終わるまで張り続けなければなりません。取り巻きを作る人間は孤独に耐えられない人、寂しがり屋、ずっとビンボーだった人、コンプレックスがある人、悲しい人、切ない人、酒がないと生きられない人。一人程楽しい事はない。孤独程心が落ち着く事はない。

取り巻きは蛭の様な者、美味しい血がある限り吸い尽くす。一匹二匹取り巻きは増殖する。
教授の取り巻き、親分の取り巻き、社長の取り巻き、スターの取り巻き、先生の取り巻き、ネジ巻きで巻いた猿がシンバルを叩く様にバンバンヨイショする。ゴルフへ行って、百円のティーも自分の金を使わない者。缶ビール一缶、清酒一瓶、イカの薫製一袋だって自分の金を使わない者。特技ヨイショ、趣味ヨイショ、仕事ヨイショ、そういう者がこの社会意外にも出世している。

血を吸い尽くされた人間は破滅するのみ。
過日、ある有名人であった人を訪ねた。かつて豪邸に住み、三台の車のうち一台はマセラッティ、一台はベントレー、一台はローバー。油壺にはヨットとクルーザー、三人の子は外国へ留学。海の見える家の一階からはモーターボートが出て行く。365日、取り巻きに囲まれていた。誰か金の使い方を教えてよ、なんて言っていた。金が金を生んでいた。

職業は言えない、直ぐ判ってしまうから。刑務所の塀の上を歩いている様な人生。
朝から晩まで取り巻きに囲まれていた。金、女、SEX、薬が取り巻いて、会社はあえなく倒産。
取り巻きは誰も来ない。
正しくは取り巻けない、医療刑務所の中だから。

シャブ中の治療中、太い鉄格子の中、部屋は狭い。ここに来るまで、主食コカイン、デザートコカインの生活だった銀座から消えたのは四年前だ。

年老いた母親がパジャマやガウンやスエットを丁寧に片付けている。老母は言う。取り巻きが重かったんだよ。あの子は気が弱くて、寂しがりやで、小児喘息だったんだ。
体だって小さくて細くて、運動だって何をやらせても苦手だった。ただ数学だけは飛び抜けてよく出来た。結局はそれが仇になったんだ。株や相場は恐く取り巻きはもっと恐い、そう思った。最近は幻覚が酷い様でしてね、いずれは狂うでしょう、馬鹿な子です。医療刑務所の少し斜め前のお店で渋茶を飲みながら老母と話した。


取り巻きだった人たちは一人もいない。あれだけたかりにたかったのに、血の一滴も出なくなった相手にはもう取り巻く価値がないのだろう。万が一病が治れば法を犯した事による刑罰が待っている。飲めや、歌えや、どんちゃん騒ぎはもう出来ない。

忘年会の季節となった。夜の街はそれぞれフトコロと相談して盛り上げてはいるが、あの頃の勢いはない。ただ取り巻きたちは次の美味しい血の味を求めて、あんたが社長、あんたが大将、あんたがあんたが、とヨイショ大会をしている。

たまたま一人バーのカウンターで飲んでいたら、医療刑務所で廃人へ向かっている男に取り巻いていた連中が入って来た。ボックスに座って直ぐ私に気がついた。
あっ、どうもどうも、お久しぶり、いや〜すごいですね、すごいですねと寄って来る。
何も凄くはねぇや、阿呆俺には寄ってくるなと思った。見てみるとある会社の二代目社長がバリバリに取り巻かれているではないか。スポン、スポンとシャンパンが空いた。今どき流行らねえ奴等だ。

1 件のコメント:

sakon さんのコメント...

いつも勉強になります。しっかりと地に足を付けて生きていかねばと思います。