神田明神下に「左々舎」(ささや)という河豚ちょうちんを灯りにした店がある。
その昔、神田芸者の人が住んでいた処をそのまま使っている。
博覧強記の親友、加藤雄一さんに紹介してもらい、すっかり気に入っている。江戸情緒がそのままだ。激しく降る雨の中、明神様のお賽銭箱の横で人を待つ。お賽銭、奮発して千円。母の事、知人の事、親友の事を二礼二拍手一礼。
待つ事五分。おっ、来た。遠くから小走りに走ってくる黒のシルエット。身長一六五位。
近づけばやはり黒づくし、黒い髪、太いニットの黒ロングカーディガン、同じ素材のロングマフラー、黒系のプレーンなスカート(?)、グレーのVゾーンのセーター、形のいいバスト、銀のネックレス、この日の圧巻は黒のロングブーツ、エナメルの様に光る先が鋭いピンヒール、銀のベルト巻き式(?)歳は二十四歳。マイッタか、神田明神。恐れ入ったろ。(神田明神始まって以来でしょ)
超美人は一年に一度しか願い事をしないので、この日は明神様に手を合わせず。
いざ、「左々舎」の河豚だ、フグ行こうなんてダジャレている胸の内。急な階段を降りて、左に徒歩二分。鳩ポッポのような含み笑いに足許が滑る。
この店は、かの小説家山口瞳さんがこよなく愛したとか。先生の生原稿やら、色紙やらが変わるがわる飾ってある。
冬は河豚一式。夏は鱧しゃぶ、秋は鯛しゃぶとなる。
入って右にカウンター、五人位座れる。突き当たりの上りの座敷に、六人掛けのテーブルが二つ。左奥に個室。ただし襖は閉めない。四人掛け、芸者さんが使った三味線が自然に置いてある。カウンターの正面は、掘りごたつ式のテーブルが二つ、四人掛け。テーブルはそれぞれ大きい。
なんともいい人柄のご主人夫婦と一人の女性。この三人に会うだけでも行く価値有り。
時々娘さんがいる。親娘一族、祭りになると一変するらしい、三社命なんです。
その時の写真が数々、有名人、著名人の色紙がそれとなく、貼ってある。
先日ある代議士先生と行った時、お店は沈んでいた。何故ならいつも入り口で迎えてくれる愛猫が二十歳の生涯を閉じた。何でも、店の前で車にぶつけられたとか。地元の人なら、この猫の存在を知っているので車は徐行する。あくまで猫ちゃん優先だ。
よそ者が何も知らず路地に入って来たのだ。私が行った日は丁度四十九日。みなさんシーンとしてました。入り口の竹の長椅子の上に小さな赤い座布団が悲しく置いてありました。帰る時素敵な先生と写真をパチリしました。夫婦でピース。この日はかなり元気に回復してました。
話してた超美人を連れて来たよと言うと、まぁ~、なんてなんて美しい、とため息。
私の点数がぐ〜んと上がりました。
さて、食した品は、順次二人で、(小)生ビール、河豚づくしのオードブル、河豚刺し大盛り、河豚ちり。この間、ヒレ酒二杯ずつ、そして河豚のおじや。ここで私は、焼酎のロックスを二杯、抜群の味のお漬物。旨い、上手い、ウメェ~。もう私は汗だく。
相手はきれいな真っ白い歯を出して、鳩の様なこぼれる笑い声。
この女性には魔性があるのです。将来はある分野できっと世界に名を馳せるでしょう。
その時公表します。
夢とロマン、芸術と文学、旅と風俗、砂漠と荒野、都市と建築。話は弾みに弾むのでした。日本とは、日本人とは、密度はディープです。おじやを二杯食べて、お漬物食べて、デザートです。大きな栗の煮たものが一個。栗をすり潰して作ったアイスクリームがひと山。ほてった体に絶品です。
お勘定は二万四千二百円(税込み)。
今どき、高いと言えば高い。安いと言えば安い。でも、何とも言えないいい笑顔のご主人夫婦、それを見るだけでも、又、お店のしつらえ、雰囲気に触れるだけでも癒されるから、やっぱり安い。コースは七千円から。何しろ食の世界では鬼より恐い、かの佐藤隆介先生が、「左々舎」はいい、忘年会は決まりだと、命を下されました。
どうか、江戸情緒、神田の粋、絶品の笑顔とお料理に会いたい方、ご利用してみてください。期待を裏切ることはまずありません。
できれば美人と。あるいはそれなりの人と。
1 件のコメント:
東本さんがそんなに褒め称える美人、一度お会いしてみたいものです!!笑
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