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2009年12月24日木曜日

人間市場 キョロキョロ市篇

親父の目が止まる事はない。
11時半にオープンして4時半位に終わるまで、大きな目はキョロキョロ、キョロキョロ。
そして時には睨みつける。カウンターに10人位、小さな座敷に4つの小さなテーブル。ここは親子連れ用である。カウンターに子供は座らせてもらえない。どこか、私が育った町のとあるラーメン屋にその雰囲気は似ている。店の名前はサッポロ軒という。メニューは極めてシンプルである。

ここも私の育った名物店と似ている。違いといえばワンタンメンがここには無い位だ。ラーメン周辺のメニューだけである。味噌と醤油味のみである。親父の目はキョロコロ、キョロコロしている。奥さんとパートのおばさんの、計3人で働いている。

 人気があり11時頃から店の前に人が並んでいる。小さなお子様はお断りと貼紙がしてある。どこまでが小さな子なのか判らないので一度聞いた事がある、その時の親父のセリフは、自分でちゃんと食べれる子です。そうでないといつまでも席が空きませんから。小さめの体に大きな目である。魚でいうとメバルに近い。奥さんは中々見栄えが良く、愛想がいい。その日の定数が終わったら食べ止め終了、閉店である。私の嫁に行った娘や息子夫婦、又義姉の息子夫婦などは、わざわざ東京から車で食べに来る。親父と話をする客は滅多にいない。
 

ある日私と愚妻、娘と息子とで店に行った。どうも最近奥さんの姿が見えない。パートのおばさんとバイトのお兄さんの布陣である。親父はイライラしていた。
「親父さん、奥さんどうしたの最近見かけないけど」
店に置いてあるスポニチを読みながら言った。ギョロッとした目が私を見据えた。
「もうこんな仕事やだっつって店に出ないの。疲れたって。こっちだって腰のコルセット外したら立ってられないんだから。それでも我慢してやってんのに勝手なもんだよ。太極拳だが、ヨガだかしんないけど、そんなもんやったり温泉旅行ばっかり行ってるよ」


親父の話に、店の中にいたお客は初めての経験だったのかじっと耳を立てながら麺をすすっていた。スープを飲む音がいつもより皆強く感じた。親父さんもういいじゃないの。残すだけ残したんだから。私は、私が育った町の有名なラーメン店を思い出した。雑誌フォーカスに載った。現金5千万が畳の下にびっしり隠されていた店である。総額1億円以上の脱税だった。その事を思い出した。
「親父さん、サッポロ軒って言うんだからやっぱ札幌出身?」
「違います」「へぇそうなんだ」
そこへ頼んだチャーシューメンマラーメンが出来上がった。この間テレビの取材が来たから断ったよしつこい奴等だねまったく、独り言の様に言っていた。年の頃は私より4,5歳若く見えた。息子がいないからね俺の代で終わり、そう言いながら煙草を一本うまそうに吸っていた。ハイライトであった。店の中に立って待つ事は許されない。外で待つこれが掟だ。


あ~あ、俺も終わりにしたいなと言った。店内に異様な空気が流れた。
その日から2ヶ月後、お店は開かなくなった。通常、閉店するなら閉店と貼り紙が貼られるはずである。しかし、都合により暫く休業という貼り紙がされていた。皆、暫くの辛抱だと諦めた。


その頃親父は何をしていたか。湘南シーサイドカントリーの芝の目をキョロコロ見ていたのだ。何しろゴルフが趣味で、それで腰を痛めたのだという。町のタクシーの運ちゃんが、色々教えてくれた。もう毎日の様に行ってるよ、メンバーだから、他にもレインボーと平塚富士見も持ってるんだ。他にマンションを2軒、車はなんとジャガーだという。とにかくゴルフ好きなんだよ。そんな話を聞いてから、暫くでなくず~っと店は開かなかった。今は、昔いた若い衆(?)が同じ様な味を出して結構人気を保っている。
親父はゴルフ三昧、奥さんはヨガ三昧との事である(?)。フックかスライスか、親父の目はキョロコロ、キョロキョロしているのだろう。入ればきっとパーだろう。

1 件のコメント:

sakon さんのコメント...

親父さんの目がどれだけキョロコロ、キョロコロしているのか、見てみたいですね~!笑