七月九日午後七時ちょいと過ぎ、銀座二丁目の中華屋さん。
私は一人夕刊を読みながらシューマイ(焼売)を食べ、ハイボールを飲んでいた。
知人と会うまで時間があった。
暑い、蒸し暑い、少し汗を引かせたかった。
テレビからNHKニュースが流れていた。
私の後から来た五十六・七歳のおじさんが右前に座って、麻婆豆腐定食を頼んだ。
私の左隣りの細い女性は一人ワンタンメンを食べていた。
入り口近くの中年男女は、生ビールとお通しの枝豆を味わっていた。
ニュースは川内原発再稼働へと伝えている。
人が何千何万人死んでもきっと表情ひとつ変えずニュースを伝えるであろう武田アナが映っている。
原発事故が起きても逃げ場を確保していない、安全基準(?)原子力規制委員会のどんより暗い田中委員長が、いつものように聞き取れない低い弱々しい声で話している。
私が五つあるシューマイを三つ食べた時、おじさんに麻婆豆腐定食が、おまちどーさんと出された。アツアツの麻婆豆腐が赤々とお皿いっぱいに、ごはんとザーサイ(小皿に)と小さなスープが私の目に入った。
七時二十五分ちょい過ぎ、ニュースに大相撲が出た。
横綱日馬富士と平幕嘉風だ。あっ、おっ、あ、あ、あ、あ〜横綱がヨッタ、ヨッタしながら敗けた、と同時におじさんが、アツ、アチ、アヂーと小さく声を出した。
麻婆豆腐を口に入れた後、予想を超えたお豆腐の熱さにオジサンの口内が水を要求した。おじさんは慌ててコップの水をゴクゴク飲んだ。
だが、お豆腐は熱い温度を保ったままおじさんの喉を水と共に通過した。
で、今度は喉から食道にかけてムグッ、ウグッ、アッヂーとなり背中が痛くなってしまった。イッテー、セナカイッテーと声を発し、深呼吸したその顔は涙顔だった。
左手を背中に回し拳でどんどん叩いていた。
きっと日馬富士のファンだったのかもしれない、麻婆豆腐は慎重の上にも慎重に取り扱わないとヒデー目にあうことを私は知っている。
おじさんと同じ目に何度かあったことがあるからだ。
最高に旨い麻婆豆腐は最高に熱いのです。
銀座二丁目「菊鳳」ここの中華料理はどこにも負けない。
正真正銘安くて抜群に旨い、そして熱い。一食千円もあれば大満足!
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