「もしもし」
「ハイハイ」
「もしもしこちら茅ヶ崎市の納税課の者ですが」
「ハイそれが何か」
「あの〜ですね固定資産税の納付がされていません、通知が届いているはずですが」
「何か来てたなねずみ色の細長い封筒だろ」
「ハイそうですそれです、二期分が滞納になっています、納税をしてもらわないと差し押さえになります」
「いいよ差し押さえに来てよ二万四千円分を差し押さえるのを見てみたいから」
「もしもし差し押さえですよ」
「ぜひ来てよ何を差し押さえるか知りたいから」
「…」
「もしもしどうしたの」
「…すいません少々お待ち下さい」
「今からでもいいよ待ってるから」
「そう言われても…重加算税がかかりますよ」
「いいよどうぞかけて下さい」
「もしもし◯×さんご本人ですか」
「ハイご本人さんだよ」
こんなやりとりは必ず休日に起きます。
平日はご本人が留守だと思っているので休日に電話して来るのです。
追加の差し押さえ通知が来るまでいつも放っておきます。
本当に来てほしいと思うのですが、時々愚妻が振込に行っているようです。
小さな家の名義が二人だからきっと愚妻にも何度か電話が入っているのでしょう。
二万四千円の差し押さえなんか来るわけないわよ、などと言っているのですが。
ガキの頃家に帰ったら、机やタンスや傘立てや長椅子や柱時計に赤い短冊の様な紙がベタベタ貼ってありました。もう一度その光景を見てみたいのです。
今度電話があったら迎えに行こうと思っているのです。
赤紙は何枚貼られてもいいが、孫たちが赤紙一枚で戦争に行かされる時代は断固として反対しなければなりません。
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